突然、呼び出されたかと思えばショッピングの荷物持ちと云う光栄な立場だった。なんて冗談めかして内心苦い顔を一つ。照美の前を、いつも通りの飾り気のない格好で鼻歌混じりに歩いている塔子は、普段こういったショッピングとかには全く興味が無さそうではあるが、かれこれ数時間、照美の両腕には沢山の紙袋と、塔子が店員に頼んで施された綺麗なラッピングが施された箱が数個。狭まった視界が、何よりもその荷物の多さの証明だった。
女顔だからと云って、貧弱な訳ではない。しかし特別強靭な訳でもない。腕に掛った荷物の負担は相当なもので、何度も荷物を持ち直しながら、照美もさすがに溜息を零した。そしてやっと、塔子がこちらを振り返った。

「疲れたか?」
「それより動き辛いよ」
「じゃあそこで休憩。喉乾いた」

照美の返事がどちらであっても、塔子はファストフード店に入っていただろう。だがそれでいいと照美は思う。女の子に疲れたかと聞かれて素直に疲れたから休ませてと頼める男子はそういないのだ。まして気になる異性を前にすれば猶の事。相手には全く理解されずに伝わらないプライドが顔を出す。結局、照美は数時間ぶりに手にしていた荷物を椅子の上に下ろして、固まった腕の筋肉を目一杯伸ばした。
塔子は既に二人分の注文をしにレジに並んでいた。因みに照美に何が欲しいかのリクエストを聞いてはいない。暫くして本当に飲み物だけを買って戻って来た塔子はやはり普通の女の子よりも逞しい感じがした。メニュー表に並んだお手頃価格なサイドメニューに、塔子の心が惑わされた所を、照美は一度も見た事がない。バイトの女の子が作り笑顔で勧めるメニューだって、彼女は一言「いらない」と切って捨ててしまった事があるくらいだ。

「アイスティーで良かった?」
「ありがとう」

照美は塔子が貰って来たガムシロップを一つ入れてアイスティーを飲む。塔子は面倒くさいのか何も入れずストレートでアイスティーを飲む。照美は自分の隣に置いた荷物を見つめながら、果たしてこれはいったい何の贈物なのだろうか、と考える。誕生日プレゼントにしては、数が多すぎる。

「次は何処に行こうか」
「まだ買うのかい?」
「?もちろん、」
「一体何でこんな沢山贈り物が必要なんだい?」
「クリスマスプレゼントだ」
「まだ十二月ですらないのに?」
「十二月は混むじゃないか。別にクリスマスらしいものをあげるつもりはないから、いつ買ったって同じだろう?」
「同じかなあ」
「同じだよ、少なくとも、あたしはね」

次の瞬間、塔子は残っていたアイスティーを一気に飲み下して、立ち上がる。さあまだまだ買うぞ!と息巻いている塔子を茫然と見上げながら、照美はつい最近見たドラマで、女には買い物脳があるとか言っていたなあ、とぼんやり考える。やはり塔子も女の子なのだ、と照美も急いで残りのアイスティーを飲み干す。まだ腕には紙袋の持ち手の跡が残っているけれど、仕方がないので再び荷物を持ち直して店を出る。やはり塔子は少しだけ照美の前を闊歩している。その背中はその辺の男子よりも逞しく見える。

「あ、スポーツショップにも行かないとなあ」
「サッカー関連?」
「円堂達には新しいボールとかが一番良いだろうな!」
「そうだろうね」

重心がずれてしまった箱を整えながら塔子の話題に相槌を打つ。円堂達とは、雷門中の全員を指しているのだろうか。今後も買い物を続けると言う塔子の財布の中身が非常に気になる所だが、今は自分の手中の荷物をぶちまけないことが照美の最重要任務だった。

「そうだ、アフロディへのプレゼントだけどさ」
「くれるのかい?」
「びっくりさせたいから、それは今度あたしが一人で買いに行くからな!」

逞しい言葉で、こちらを振り返りながら楽しそうに宣言してくる塔子はそこら辺の男子よりも格好良くて、世界中のどんな女の子よりも可愛いに違いない。赤くなってしまった頬を隠そうと顔を下げれば、一番上に積まれていた箱が音を立てて落ちた。






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