どんな出来事もいつかは思い出になる。そうして流れた月日を思い出と呼び懐かしいと呟く。
そんな人並みの行動を取るいつかの私は、どんな人間になっているのだろうか。今みたいに男子に混じってボールを蹴ったり、半ズボンでスライディングしたりは、多分していないんだろう。
今すぐそうなれと言われたら、きっと思い切り顔を歪めて大声で喚いて拒否するだろう。しかしいつか自分がそうなるのだと想像をしても、何故かその未来像を受け入れられる自分がいる。

「鬼道が居るなら悪くない」
「何の話だ?」
「いつかスカートを履いて、ヒールの高い靴を履いて、今みたいに走り回れなくなっても。鬼道が居てくれるなら多分泣き喚いたりはしない気がする」

鬼道は私の言葉を鬼道自身の中で噛み砕くように一瞬黙った。鬼道に比べたら頭の悪い私が用意した言葉だ。直ぐに鬼道は思考の為に寄った眉を伸ばした。

「それは遠回しなプロポーズか何かか?」
「プロポーズ?」
「塔子がそんな淑女になる頃まで、それからも一緒に居ようと言われたのかと思ってな」
「そっか、」

やっぱり鬼道は賢い。私は表面的な意味だけで言葉を選んだけど。鬼道はその裏の可能性まで見つけ出すんだから、素直に感心して彼をしげしげと見詰める私の姿は彼にはどこか幼く映るだろうか。

「プロポーズ、なのかも」
「そうか」
「返事は?」

鬼道みたいに頭は良くないけど。多分鬼道は私のプロポーズを受け取ってくれる気がした。ゴーグルのレンズに隠された鬼道の瞳が今凄く優しい色をしてることだって分かる。

「そうだな、もしMFをやりたがれば俺が教えるし、DFをやりたがるなら塔子が教えてやればいい」
「何を?」
「サッカーを、俺たちの、子どもに」
「子ども、」
「だから塔子はスカートかんか履かなくて良いし、ヒールの高い靴も履かない。きっと大人になっても今と変わらず走り回ってると思うがな」

当たり前の様に、まるで未来を知っているかの様に確信を持ったかの様な鬼道の表情はフィールドで見る私が一番格好いいと思ってる鬼道だった。だから私もきっと私達の未来はそうなるんだろうと思った。
けれどMFかDFかどちらか一つなんて寂しいから、子どもは最低二人。そしてその子達にサッカーを教えながら、こんな鬼道と私の何気ない幸せな日々のことを話し聞かせてやるのだ。





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