※ロココ→夏未→円秋


「いいね、ヒロインに選ばれた君は」

敵意も悪意も隠さずに放られた言葉は、無防備に耳を傾けていた秋に容赦なく刺さった。ヒロインなんぞに、なったつもりはない。だが、好いた相手に選ばれた幸せに溺れて居なかったかと聞かれれば、首を縦に振らねばならない。確かに、自分は忘れていた。秋が円堂に選ばれたと云うことは、彼に想いを寄せていた他の少女達の願いを叩き壊す事になるのだと。そして、そんな秋の無神経さが、目の前にいるロココを不愉快にさせているのだ。

「―…僕の好きな女の子はね、マモルのコトが好きだったんだ」
「………っ」
「すごくすごく好きだったんだ」

その女の子が、誰を指しているのか、秋には直ぐにわかった。そして彼女の想いの丈も、同様に承知している。秋を責め立てるロココの言葉は、堰を切ったような容赦なく秋に降る。

「遠く離れた外国で、マモルの為にたった一人で頑張ったんだ」
「………」
「傍に引っ付いているだけだった君とは、違うんだよ」
「……それは、」
「夏未のマモルに対する気持ちはね、絶対君なんかに負けてない。負けてないんだよ!」
「知ってるわ。それでも、私も、心から円堂君が好きなの」

ロココの言葉を否定しようとは思わない。常に全力は尽くしてきた。だけどそれがただ円堂に引っ付いていると映るならば、それは相手の主観に委ねる他ない。それでも。他者を想う気持ちに、大きさで優劣が決まるとは思っていない。だが秋は自身の何を否定されようとも、円堂に向けるこの気持ちだけは否定させる訳にはいかなかった。

「―…夏未が、云うんだ。何でマモルが好きなのに、マモルから離れちゃうのって聞いたら」
「?」
「マモルを傍にいる事で支えてやれるのは自分じゃないからって、悔しいけど一番それが出来るのは君なんだって、笑いながら、夏未が云うんだ」
「…!夏未、さん」
「おかしいよ、こんなの」

ロココは夏未が好きだった。だから夏未の想い人が円堂だと知った時。夏未を手に入れたいと思う気持ちの裏に、もし夏未が自分以外の誰かの手で幸せになるのならば。その相手はきっと円堂なのだと。勝手に思い込んでいた。
だからこそ、円堂と秋が恋仲になったと知った時。夏未の笑顔に悲しみの色が滲んだ時。ロココはどうしても、円堂に選ばれて幸せそうに笑う秋に一言物申さずにはいられなかった。円堂でなかったのは単に、円堂だと自分の恋のもどかしさを彼にぶつけてしまいそうだったからだ。
本当は、ロココは薄々感づいている。円堂と秋が結ばれた反面、秋と夏未が互いを認め合っていて、自身の想いが散ったことに悲しみはあれど納得もしている事に。
だけどそれでは。報われなかった恋心が余りに可哀相に思えた。それはロココが、夏未の散った恋心に自身の恋心を重ねて見ているからでもある。

「祝福なんか、絶対してあげない」
「…うん」
「夏未が幸せにならない限り、絶対」
「うん」

一方的に理不尽な責め苦を受ける秋はロココを真っ直ぐに見る。そこには、ロココを責める色はなくどこまでも肯定していた。
だけどロココは気付かない。夏未は自分が幸せにするから、君達は勝手に幸せになればいい。そう宣言すら出来ない自分の弱さに、ただ震えていた。
もしかしたら、自分よりも秋の方が夏未の幸せを願っているのかも知れない。
そう考えて自嘲気味に笑うロココを眺めながら、秋は願う。
どうか、貴方と夏未さんが、幸せになる未来が訪れますように、と。






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