斜め後ろから見る円堂君の姿はいつも通りの彼で、そんな当たり前なことに私は今日も救われる。

二人きりで歩く帰り道は、みんなでサッカーをしている時に比べたら大分静か。偶に訪れる沈黙を苦に感じたりはしないけれど、円堂君がどう感じているのかはわからない。もし気不味く感じていたらどうしよう、風丸君達と帰れば良かったと思われたらどうしよう。円堂君が好きな私は今日も円堂君のことがわからなくて不安になる。
知らず知らずに不安でつい歩調を緩めていた私の位置は円堂君の斜め後ろ。普段の私の定位置へ。
練習前や休憩中や会議中。マネージャーである私は、部員へ語り掛けるキャプテンの円堂君を斜め後ろから見ている。部員のみんなと一緒に実際にプレイする訳ではない私には、円堂君と向かい合ったり隣りに立つことは出来ないのだ。

「秋?」

私が遅れてあることに気付いた円堂君が不思議そうに振り返る。小走りでまた円堂君の隣りに並ぶと、円堂君は少し満足そうに歩き出した。

「歩くの早かったか?」
「大丈夫、ちょっと考え事しちゃっただけ」
「確かに、さっきの秋は難しい顔してたな!」

そんなに顔に出ていたのか、と同時にそれを円堂君に見られていたのかとゆう二重の恥ずかしさで一気に顔に熱が集中する。円堂君はまた不思議そうに首を傾げていたけれど、突然何を思ったのか私の手を取って握ってきた。

「っ!円堂君!?」
「これならまた秋が難しい顔しても、大丈夫だ!」

円堂君は多分私がまた考え事に集中して足を止めることを心配してくれたんだろうけれど、これでは逆に何も考えられない。

「これなら秋が隣りからいなくなったりしないしな」

これは、ほんの少しだけ、自惚れでみても良いだろうか。隣りには立てない。そう思っていたけれど。誰かの傍にずっといるなんて無理だと心の何処かで決めつけて、見ているだけで良いと誤魔化した。そんな私を。少しの勇気で奮い立たせればもしかしたら、なんて夢を見ても大丈夫だろうか。
いつからか他人に向けて伸ばすことを諦めてしまっていた腕を伸ばすことが出来たなら。そして円堂君ならきっと。いつも通りの笑顔で当たり前の様に受け止めてくれるんじゃないか。
そんな幸せなもしもを願いながら、私は赤い顔のまま笑って、繋がれた手にそっと力を込めた。






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