(マクリカ→源春→一秋→ロコ夏→道+冬→鬼塔) リカは結婚だとか幸せな家庭に憧れている。 だから早く仕舞わないと女の子の婚期が遅れると雛人形は毎年三月三日が過ぎれば直ぐにでも仕舞うようにしていた。そしてそれは今年も変わらないはずだった。 日本にやって来るマークが雛人形を見てみたいと言わなければ。 見に来たいなら見に来れば良い。だがマークが日本に来れるのは予定を切り詰めても日本時間の四日なのだと言う。 「雛人形、仕舞わなかったのか」 「せや、だからマークはうちの婚期が遅れないよう責任取らなあかんで!」 「それは勿論喜んで」 どうやらリカの婚期は、一年中雛人形を出して置いても遅れることはないようだ。 ――――――――――― 家のお雛様は変なんです。春奈の言葉に、彼女の自宅で寛いでいた源田は首を傾げる。雛壇のある和室から春奈が源田を手招く。近寄ればそこには春奈の為の雛人形が一式きっちり並べられていた。 「すごいな」 「でも変なんです!」 「…どこがだ?」 「お雛様より三人官女の方が可愛いじゃないですか!」 「……そうなのか?」 雛人形を見慣れない源田にはどれも日本人形にありがちな顔にしか見えない。だけど春奈は納得行かないのか変です変ですと繰り返す。 「春奈は可愛いぞ」 「何の話ですか!」 あれ、何の話だっけ。 ――――――――――― アメリカにいた頃はクリスマス、バレンタインと誕生日くらいしか秋に贈り物をしたり祝いの言葉を掛けたりすることはなかった。 「ひな祭りは秋の為の一日だからね」 「女の子、ね」 「だから秋の為だよ。俺が祝う女の子は秋だけなんだから」 「調子良いなあ」 今日一日は秋の側にいてうんと甘やかしたいな。そんでついでに俺も甘えたいな。 ぼんやりしていたら秋にひなあられ食べる?と聞かれたから頂戴と返す。あれ、俺が秋を甘やかすはずがいつもと変わらないような気がしてきたぞ?まあ秋と一緒にいられるなら別に良いや。 ――――――――――― 初めて見る雛人形にすごいすごいと瞳を輝かせるロココの姿は初めて自分の雛人形を得た少女のようであった。 お茶を取って来るから待っていて。そう言い残し部屋を出た夏未が戻った時、ロココが普通に雛人形に手を触れていたがそう神経質でもないから咎めはしない。 「何してるの?」 「お雛様とお内裏様をくっつけてる!」 「バランスが悪くないかしら」 「好きな人とはくっついてた方が良いよ。絶対」 僕もナツミとはくっついていたいもの。ロココが当たり前のように言い放つから、夏未も照れより先にそうだろうかと納得してしまう。 ならば、今年のひな祭りが終わりまた仕舞うまで、この子たちは今の歪な配置のままでいよう。 好きな人とはくっついていたいものなのだから。 ――――――――――― 私は毎年、自分の雛人形を自分の手で飾る。父は、女の子の為の人形を飾り付けるのは少し恥ずかしいようだ。だけど毎年父が仕事から帰る頃、飾り終わった私の雛壇を見ては小さく笑って凄いな、とか綺麗に出来たな、と言ってくれるから嬉しい。このお雛様は私のお気に入り。私と同じだけ年を重ねてきた分身みたいなもの。いつか私がこの家を出て結婚をして子供が生まれても。父が住むこの家に久遠冬花の幸せを願うこの雛壇を飾りに来たい。そう言えば父は少し寂しそうに私の頭を撫でた。大丈夫よ、私は、ずっとこの家の女の子だもの。 ――――――――――― 立派な雛人形よりもサッカーボールを頂戴。幼い頃、塔子の要求に周囲は苦笑い。らしいと言えばらしいけれど。それでも笑って雛人形もサッカーボールも与えてくれたのは父だった。 「総理らしいな」 「立派過ぎるのもどうかな、と思ったんだけどね」 「そうだな」 「でもあたしに女の子が生まれたらあげれば良いんだし、だったらちゃんとしたやつじゃないとね」 鬼道は塔子の雛人形の前、彼女と二人座ってひなあられを食べている。今日彼女の家に招かれた理由はこれだけ。ひなあられを食べに来たのだ。大好物でもない腹にも貯まらなそうな菓子を食べる為だけに、鬼道は塔子の家にいる。だけど今自分たちの間に流れる空気が、鬼道は嫌いではなかった。 「鬼道は子ども女の子でもいい?」 「ぶっっ!!」 ←→ |