意地を張っていたつもりはない。だけど素直でいたのかと問われればそれすら怪しい。
純粋に、パパを困らせないように、パパが望まずとも、それでパパが救われるのなら、あたしはそれで構わない。
繋いだままの手を放すのは、きっと容易い。
だけど、触れ合い絡めた心を解くのはいたく困難なこと。

「綱海、バイバイだ」
「イヤだ」
「その答え方嫌い」

原因も結末も知りながら感情で未来を選ぶなんて出来ない。
だって二人は理屈だって覚えた。
だからあたしはパパの為という理屈に従って綱海以外の男の下へ行くんだよ。

「感情だけじゃあどうにもならない」
「感情がなきゃ人と人は結ばれないだろ」
「それって理屈」

殺伐とした空気が嫌だ。綱海には似合わない。いつだって太陽と海を背にあたしに向かって笑いながら手を差し伸べてくれた。
そんな綱海が、あたしは大好きだったんだ。
綱海の側にいるのは楽しかった。あたしは只のあたしで、そんな当たり前すら心地良かった。
もしかすると、それはあたしの来るべき時を予期した誰かからの、最後の幸せなプレゼントだったのかもしれない。

「綱海と一緒にいれて良かった」
「塔子」
「幸せ、だったよ」

これ以上は、ない程に。流す涙などない。幸せな思い出と物語は笑顔で締めくくらなくてはいけない。そうあって欲しい。
少し涙ぐみながら未だあたしの手を離せずにいる綱海に、最後のキスを贈ろうか。





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