「好きだよ」の一言が、どうしても言えなかった。クラスメイトの冗談の間に紛れ込む言葉に便乗する事すら出来ない臆病な自分を心底軽蔑したい。だけど何も言えずに今まで過ごしてきたのは結局自分が可愛いからだ。
「風丸、帰ろうぜ!」
能天気に笑ってみせる円堂が、好きだった。否、今でも好きだ。だからそうやって笑いかけられる事が嬉しくて辛いのだと、きっと円堂には死ぬまで理解出来ないのだろうし、出来なくて良い。
「木野と一緒に帰らないのか」
「だって今まで帰りは風丸と一緒だったろ?」
「木野を送って行けよ。もう暗いんだから」
円堂は、木野と、付き合っている。だけどそういった事(恋愛感情自体)が初めてな円堂の行動パターンは以前と何も変わらない。木野も積極的に相手に何かを求めるタイプではないから尚更。だけど変わらない事の様に見せかけて本当は全てが変わってしまっているんだ。俺はもう、今までの様に胸を張って背筋を伸ばして円堂の隣りを歩く事は出来ない。後ろめたい好意が絶えず俺を脅かす。円堂の中に残された椅子は「友達」の一つだけ。だけどそれにすら縋りつきたい必死な俺がいる。
「じゃあ秋送って来るな!」
「ああ、また明日」
「おう!」
一つ一つ、俺と円堂の繋がりが解けていく。俺の気持ちは宙ぶらりんで一方通行。その内それすら出来なくなるんだろう。辛いばかりのくせに馬鹿みたいに円堂を好きな俺は今日から一人で帰るんだ。弁当もその内円堂とは食べられなくなるのかな。

恋がこんなに苦しいと知ったから、俺が恋するのは円堂が最初で最後だといい。結局、俺は自分が可愛いんだから。





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