まだまだ子供の俺達には、愛だの恋だの早すぎる。頭の固い大人から見れば、そう言われてしまうくらい、俺達は恋に必死になれるんだ。好きって言葉を簡単に呟ける女子同士の戯れは出来ない。心の内で密かに生まれ膨らみ隙あらば外に出ようとする気持ちに精一杯蓋をして過ごす。それでも時にはその欠片を取り出して相手に差し出してみたりもしてる。どうやら彼女は、その欠片を与えることはあれど、受け取ることには大分不慣れな様子だった。
「リカ、」
「何?」
嘗て俺に向けられた、あの情熱的な瞳は成りを潜めて、それでもまだ俺の傍にある。消えた気持ちの残骸か、それとも只の優しさか。思えば追い掛けられてる内はいつだって俺は逃げ腰で傲慢だったのだ。背中に受ける視線の熱を失って初めて自分の気持ちに気付く迂闊さも変わらない。
「(好きなんだよ)君のこと」
「え?なに?」
肝心な気持ちはいつも口ぱくになってしまう。伝わらない苦しさなら知ってる。だけど伝えても曖昧な言動で流される辛さなら、リカが知ってる。駆け引きにもならない恋だから、きっと持ち玉はストレートだけで良いんだ。ふと、視界の端で揺れるリカの手を見つけ握りしめる。驚いた様子のリカはだけど抵抗はしなかった。
「ほんま、今日は可笑しいなあ、」
「まあ、ね」
握った手は、小さい。リカは握り返さない。一方的な触れ合い。だけど確かに伝わる熱に、普段蓋をして閉じ込めている気持ちが塊のまま溢れ出す。
「ねえ、リカ」
「ん、」
「愛しい、なんて言ったら、君は笑う?」
リカは、一瞬その大きな瞳を揺らして、そして。「ちっとも」と微笑みそっと俺の手を握り返した。
二人して微笑み、ちょっとだけ、泣いた。





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