見上げてばかりだった。身長的にも、人間的にも。追い掛けて手が届かないと云うよりも、簡単に触れられる距離に居るのに、触れたら消えてしまうんじゃないかってくらい、私とアイツを繋ぐ絆は頑固で薄っぺらかった。


数年前の夏、お日さま園のみんなで花火をした。アイツ、――晴矢はやっぱり両手に花火を持って振り回しながら走って茂人に注意されていた。
私は数人の女子で集まって最初から線香花火をしていた。まだずっと子供だった私達は、誰の火が一番最後まで残っているかの競争をしていた。だけど本当は、私は。ほんの少しだけ祈っていた。この火が、いつまでも消えることなく在るならば。私の晴矢への想いも、きっと消えることなく在るだろう、と。だけど、そんな願いは前方不注意で突っ込んできた晴矢が私にぶつかってきた事により、あっさり私の花火の火は落ちた。そしてその後、柄にもなく泣き出したりなんかした私は晴矢を思いっ切り罵倒して建物に逃げ込んだのだ。

「花火しようぜ!」

いきなり乙女の部屋に訪ねて来たと思ったらこれだ。突飛な発言はそろそろ控えて戴きたい。暦は霜月。真冬直前だ。

「寒いから、イヤ」
「コートとマフラー着けろよ!この間出したじゃん」

結局、いつも私は晴矢の馬鹿な行いに付き合ってしまう。いくつになっても変わらない、変われない。これが私の弱さだ。
外に出れば、まだ宵口だと云うのにそこは暗闇で、もうサッカーの練習をしている人もいない。

「ほれ、花火」
「…線香花火?」
「そ、駄菓子屋で超安かった」
「晴矢みみっちいから線香花火は嫌いだとか言ってたじゃん」

ぶつくさ言いながら、二人してしゃがみ込んで線香花火に火を着ける。騒ぐなんて当然しない。自然と、会話も途切れる。昔のような、競争もしない。奇妙な話だ。

「あ、落ちた」
「―…よく、線香花火の火が最後まで落ちなかったら、願いが叶うとか、そういう願掛けみたいなの、あるじゃん」
「……確かに、女子はそういうの好きね」
「杏も?」
「さあ、」

好きとか嫌いではない。私の願いは叶わなかった。他でもない、晴矢に砕かれた。勿論、あんな線香花火一つに私の気持ち全てを預けたりなんかはしていない。私の願いを消したのは、最終的には私自身だ。
ねえ晴矢。二人で花火をしたり、どこかへ出掛けたりするのはきっとこれが最後だね。いくらアンタが相手でも、やっぱり私はそう思う。晴矢もきっと解ってるよね。だって私は昨日しっかり貴方に告げたのだから。


『私、茂人と付き合うの』


最後の花火の火が、落ちた。





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