気付いた時には好きだった。只それを伝える資格が、自分には著しく欠落しているような気がした。
彼女の目線を辿れば、きっと分かる。だからそれをしない様に、俯くことが多くなった。
そうすれば、彼女にしゃんとしいや、と渇を入れられる。
溢れ返っていた自信は、日を追う毎に窄んでいく。情けない自分には、鏡を覗けば直ぐに会える。
誰かを想う誰かを想うのは、こんなにも辛いことだった。

「アイツが好きなのか」

問い掛けは、視線でのみ返された。多大な情愛と慈しみは自然と零れる。纏う空気は場所や時を選ばず何処か神聖ですらあった。
彼女はきっと、叶わぬ想いの行き先を知っている。
だから彼女は、強くてしなやかな生き方を選べるに違いない。

「恋とは辛い物だな」
「なんや、セインも恋しとるん?」
「ああ。君と同じように」
「はは、ほなお互い頑張ろか」

頑張れるだろうか。彼女の恋を応援出来るか、振り向かせるまで自分が彼女を想い続けられるのか。そのどれもが不確かだった。
自分の恋でさえなければ、不毛だと切って捨てていたであろう、そんな気持ち。
叶えてやりたい。叶わない。叶わなくていい。叶って欲しい。全てが嘘偽り無い本音。
自分では処理しきれない気持ちの行方は、きっと誰にも分からない。
だけどどうか、誰でも良いからこの恋を――。
言葉にならない願いは、きっとこのまま願いのままで終わるだろう。





- ナノ -