アメリカのクリスマスは、やはり日本の物とは違う。 しかし一之瀬が違和感を感じるのは、日本で迎えた去年のクリスマスを今年はアメリカで迎えたからではない。 自身の隣りに、永遠を誓って欲しい相手を見つけたからである。 基本的にアメリカのクリスマスは家族で過ごすのが一般的だ。 その分、昨日のイヴの夜はユニコーンのチームメイトとリカで散々騒ぎ明かした。 最後まで帰りたくないとゴネるディランをマークに強引に押し付けて、一足先にリカと帰宅したのは既に午前3時前だった。 早朝、一人寒々しいリビングのソファでコーヒーを啜るも大した暖にはなりそうになかった。 リビングを占領しているとも云えるクリスマスツリーを見る。数年に一度の割合で妙に張り切った父親の手によって用意される本格的な樅の木のツリーは、ライトアップされずともそこに十分な存在感を示していた。 「ダーリン?」 「あれ、リカもう起きたの?」 「目覚めたら隣りダーリン居らへんかったから…」 「そっか、まだ寒いけど、おいでよ」 寝ぼけたままのリカを、羽織っていたブランケットを広げて招く。昨夜は、むしろ数時間前まではしゃいでいたのだ。時差ぼけも相まって、今のリカは相当眠いのだろう。 覚束ない足取りでやって来たリカを、一枚のブランケットを共有する形で抱き締める。 普段は積極的に一之瀬に密着していたリカだが、一之瀬から密着しに行くと妙に照れるのか恥ずかしがることが多かった。 それが今は大人しく一之瀬の腕に収まっている。 嬉しいような、恥ずかしいような。静まり返ったリビングで小さく微笑んだ一之瀬の表情を捕らえることの出来る人間などいない。 ふと、クリスマスツリーの下に積まれた大量のクリスマスプレゼントが目に入った。 一之瀬に兄弟はいない。よってこれらは殆どが一之瀬に贈られたものである。 中には、両親の友人から、両親宛てだったり、一家全員に宛てたものもあったりするだろうけれど。 そして多分、いくつかリカ宛てのプレゼントもあるに違いない。ユニコーンのメンバーは何だかんだでリカに好意的だし、リカが今年のクリスマスを一之瀬宅で越すことは1ヶ月以上前からどうしてか周知の事実だったから。 それは、何より一之瀬とリカの関係を周囲にアピールするには絶好の機会だった。わざわざ口にせずともわかるだろう、と思う。 案外独占欲の強い男だったんだ。などと思いながら、今また夢の世界に船を漕ぎだしているリカを抱き締める腕に少しだけ力を籠める。 一瞬、身じろいだリカは直ぐにまた一之瀬に寄りかかる。 このままだと、リカは昼過ぎまで眠ってしまうかもしれない。 一之瀬は空いた片方の手で、自身の寝間着のポケットに触れる。 昨日から今日に掛けて、渡す機会を逸し続けたプレゼントが、そこに在った。 そしてそれは、親愛なる証として、あのツリーの下に埋めてしまうには重過ぎる。 「リカ、ちょっとだけ起きて」 「ん、」 上体を離してソファの上で向かい合う。 リカは相変わらず眠そうで、一之瀬はそんなリカを可愛いなあ、なんて見当違いな視点で見詰めている。 こんなに近くで、お互いを見詰め合う日が来るとは、正直去年のクリスマスには考えもしなかった。 去年は去年で、来年もまたサッカー仲間とふざけあってクリスマスが過ぎるとばかり思っていた。 だけど、実際は。全く思い通りに事が運ばない難しさとか、掌の微かな熱にすら動揺する喜びとかを感じながらこの日を迎えた。 それは、リカが。自分を好きになってくれたからで、自分がリカを好きになったから。 「俺はリカが好きだよ」 「…ダーリン?」 「メリークリスマス、リカ」 「メリークリスマス、ダーリン」 リカが自分に与えてくれた沢山の気持ち。それに見合うだけの気持ちを、ちゃんと自分はリカに伝えられているのか。 分からなくて、だけど知ろうと近付きすぎれば今度は自分の気持ちばかりを押し付けてしまう。 格好なんてつけられない。 一之瀬はリカと共に過ごす中で嫌と云うほど思い知った。 そしてリカがそんな格好のつかない自分を好きだと言ってくれる幸せも同様に知ったのだ。 プレゼントはまた、リカが起きてからちゃんと渡そう。ロマンチックなんかじゃなくても、きっとリカなら喜んで受け取ってくれるだろう。 眠たげなリカを、今度は正面から抱き締めて、ブランケットで包む。 こんな平凡なクリスマスを、これから先、何度も繰り返し迎えられれば良い。 願いと決意を胸に、一之瀬も目を閉じた。 ←→ |