朝は待ち合わせて一緒に登校、玄関を出たら彼が待っているなんてサプライズも素敵。お昼は一緒に屋上や中庭で食べたい。手作りのお弁当とか、照れる彼に「あーん」とかだって、してあげたい。授業の合間の休み時間にだって少しでもお話したいな、って思ったり。放課後は部活が終わるともう空は真っ暗だから。心配性な彼に送ってもらうの。手だって、繋いでくれて良いんだよ。

二人で並んで歩く時間は、本当はいつもと変わらない速度で流れているはずなのに。二人の持つ肩書きが「友達」から「恋人」に変わっただけでこんなにも早く感じられる。もっと遅く歩けば、時間も同じようにその歩みを緩めてくれるかな。乙女チックな思考は辺りを暖色で照らし出す夕陽と相まってより拍車がかかる。手を繋ぎたいな、名前で呼んでみたいな、寄り道だって。欲と言われてしまえばそれまで。だけど願いと言えば、まだ可愛らしく響くでしょう。立向居君は、どう思っているのかな。

「寒い?」
「少しだけ」

意地は張らない。誇張もしない。ありのままでいたい。だけど、それが立向居君にどんな印象を与えるのか、それは私にはわからなくて。ありのままでいたいけど、立向居君にだけは、可愛らしく映って欲しい。好きって気持ちは、いつだって沢山の矛盾を私に突き付ける。気付けばいつも物思い。恋煩いとでも呼ぼうか。その隙に立向居君は近くの自販機で飲み物を購入していた。多分私は、彼の「ちょっと待ってて」とかそういう類の文句を聞き落としてしまったのだろう。

「お待たせ」
「?」

同時に手渡された物は、きっと立向居君がたった今買ったばかりの飲物。温かいそれはコーヒーだった。立向居君はいつものどちらかといえば可愛らしい笑顔で「それ持ってればあったまるよ」なんて。それじゃあ立向居君は寒いままじゃない。そんなに鼻を赤くして。

「立向居君、ありがとう」
「うん、」
「でも、私、手を繋ぎたい、なあ、」

きっとその方が、二人とも暖かくなるよ。ぬくもりとか照れとか恥ずかしさとか。だけどそれ以上の愛しさで。寒さなんかどこかに行っちゃうと思うんだ。そうして手を少しだけ差し出す。断られるとは思っていない。だけど照れ屋な彼は逃げ出してしまうかもしれない。もしそうなったら、行き場をなくすこの手が可哀相だから。

「…嫌じゃない?」
「嫌なら言わないよ。それに、好きな人と手を繋ぎたくない訳、ないじゃない」
「…うん、そうだね」

やっと繋がれた立向居君の手は、やっぱり私より大きくて。キーパーとして日々努力する証の残る、少しかさついた、そんな手だった。そして思った通り、私達の体温はすぐに急上昇。だけどこの手は二人の家路の分かれ道まで絶対に離さないで。残りの手で握りしめている今では少し温くなってしまったコーヒーは、こうして考えると立向居君からの初めての贈り物と言える。ああ、飲むの勿体ないなあ、とか考えてみる。だけど惜しんでいる間にお母さんやお父さんに飲まれてしまわないように気をつけなくちゃ。やっぱり、二人で歩くこの道に流れる時間は幸せだけれど早すぎる。

朝は待ち合わせて一緒に登校、玄関を出たら彼が待っているなんてサプライズも素敵。お昼は一緒に屋上や中庭で食べたい。手作りのお弁当とか、照れる彼に「あーん」とかだって、してあげたい。授業の合間の休み時間にだって少しでもお話したいな、って思ったり。放課後は部活が終わるともう空は真っ暗だから。心配性な彼に送ってもらうの。手だって、繋いでくれて良いんだよ。
そんな期待や願いはいつだって沢山私の胸の中に潜んでいる。だけど焦る必要なんてどこにもないの。私達は私達のペースで一つ一つ。だけど最終的にはそのどれをも叶えていけるくらいに傍にいれたら良い。取り敢えず、次の目標はお互いを名前で呼び合う事。恋愛初心者の私達の日々は、今日も目まぐるしい速さで流れていく。その流れに置いて行かれないよう、しっかり私の手を握っていてね。






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