宅配便でその荷物が届いたのはつい先程の事。受取人となった春奈は「あら珍しい」と一人小首を傾げた。宛名の欄には何故か「イナズマジャパンの」と明らかにまだ続く言葉があったであろう文字がスペースぎりぎりまで書かれている。正直、あまり綺麗な字とは言えなかった。差出人の欄を見れば宛名欄よりも大分綺麗な文字で「お日さま園」と書かれている。何だかどこかで聞いた事がある気がするが、はて、どこでだったろうか。

「何してるの、音無さん」
「ヒロトさん、お届け物です」
「俺に?」
「さあ?」
「?」

要領を得ない返事に疑問を抱きながら近づいて、段ボールに貼られた伝票を覗き込んでああ、と納得。ヒロトは春奈から荷物を受け取るととりあえず食堂に行こうと促す。そこで漸く春奈はそういえば、お日さま園はヒロトさんの実家?だったと気付く。
食堂には円堂や風丸など数人のメンバーが揃っていて、段ボールを持って入って来たヒロトの方を見て不思議そうな顔をしている。
丁寧なのか雑なのか、それでも大分手際よく段ボールを開けるヒロトの傍に寄って来た円堂は興味津津といった風でその中を覗き込もうとしている。中に入っていたのは無難に菓子折りといった差し入れ類だった。宛名にあった「イナズマジャパンの」に続く言葉は恐らく「皆さんへ」であろうから、ヒロトはテーブルを挟んで真正面に立っていた木暮にその菓子の入った箱を渡す。箱を受け取った木暮や壁山、立向居等の一年生組は大分嬉しそうにしている。そんな光景を微笑ましく思って見ていると、ずっと箱の中を覗き込んでいた円堂が「これ何だ?」と箱の中から一枚の色紙を取り出す。見ればそこには色とりどりのペンと様々な字体で書かれたメッセージが書かれていた。勿論、お日さま園のみんなからヒロトへ向けたものだった。

「これってみんなエイリア学園の奴らからか?」
「お日さま園だろ、円堂」

円堂を窘める風丸も、春奈や綱海、気付けば豪炎寺や虎丸までもが自分に宛てられた色紙を覗き込んでいて、ヒロトは何故か少し恥ずかしくなってくるのを感じた。そこでふと、春奈がとある字面に目を留めて「あ、」と声を洩らす。

「この人ですね。スペースに収まりきらない大きさで宛名を書いていたの」
「ああ、晴矢?大きく書いた方が見やすいだろうってノートとかでもラインはみ出すくらいの大きさで書くんだよね」
「晴矢ってあのファイアドラゴンの?」
「なんかアイツらしいな」

この春奈の言葉をきっかけに、字面から人物像を想像する一種のゲームの様なものが始まってしまう。ただ色紙に書かれている名前はもう人間名であるから、きっと殆ど彼らには顔と名前が一致する人物はいないだろうが。

「あ、差出人を書いたのは涼野さんですね、成程、すっきりした文字を書きますね」
「なんだか本当にらしいなあ」
「あ、砂木沼はきっちりした字を書くんだな」
「この茂人ってネオジャパンにいたよな?」

わいわいと効果音が付きそうなくらい盛り上がってしまっている面々をよそに、ヒロトは若干の置いてけぼりを食らっていた。お日さま園のメンバーがどんな字を書くのかなんて、意識して見た事がなかったので、成程、と思う反面こんなに盛り上がれるものかあ、と他人事の様に感心してしまう。

「ヒロトさん、ヒロトさん」
「なに、音無さん」
「あの色紙の真ん中に、“ヒロトへ”って書かれてる文字あるじゃないですか」
「うん、あるね?」
「あれ書いたのって、もしかしてジェネシスの10番だった人じゃないですか?」「!凄いね、なんでわかったの?」
「ふふ、女の勘です」

確かにあれは玲名の書く字だった。大きめの色紙をぐるっと見渡してもその部分にしか玲名の文字は見つけられなかったから、きっと玲名はこの色紙を書くときに大部ごねたに違いない。それを晴矢や風介が、砂木沼や緑川も一緒になってやっとタイトル?だけでも何とか書かせたのだろう。そんな光景がありありと浮かんできて、自然と頬が緩む。数か月前まででは想像できないほど、自分達は仲良くなったと思う。いや、本来在るべき形に戻って来ていると言うべきだろうか。

「なあヒロトー」
「どうしたの、円堂君」
「お前ら、本当はすっごく仲良かったんだな」
「!」
「エイリア学園の頃は全然気付けなかったけどさ。この色紙見てたら、こいつらヒロトの事本当に好きだなあ、って思うし。きっとヒロトだってそうだろ?」
「うん、そうだね」

誰かに分かって欲しいだなんて、エイリア学園の時にだって思った事などなかった。俺達の在り方は俺達だけが知っていれば良い。そこに壊れた絆しか残らなくても、だ。それが今、円堂に言われた言葉に、ひどく歓喜する自分がいる事に、ヒロトはすぐに気付いた。そうだね、誰からもそう思われるくらい、俺達はきっとお互いが大切だと言えるようになったよ。そしてそれはここにいる君達のおかげでもあると思う。中には、あの頃は知らなかったメンバーも数人いるけれど。「いいなあ、俺、一人っ子だから羨ましいです」年相応に兄弟を欲しがる虎丸からの羨望の言葉に、ヒロトはただただむず痒く、はにかむように笑う。誰かに羨ましがられる程に確かな絆が、確かにヒロト達にはあったのだから。
さて、彼らの返事にはなんて書こうか。お礼と、近況報告とそれから―。それとも、この世界大会で優勝してから、それを一番の手土産にして帰る方が、いいのかな。





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