「Trick or treat!」

流暢な発音と共に、真っ黒なマントを身に着けたディランが抱きついてくる。成る程、確かにディランはアメリカ人だったのだ、とリカは一人で納得していた。つまり、ディランの言葉の意味を全く考えようとしていなかった。

「リカ!トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃ悪戯するよ!」
「なんや、ハロウィンか、すっかり忘れとったわ!」

やはり日本とアメリカではハロウィンに対する意気込みが違うのだろう。ディランは恐らくヴァンパイアの格好をしており、マントの裾を持ってくるくる回ってはしゃいでいる。

「リカ!お菓子は?」
「あー、ごめんな、ディラン。ウチ今お菓子持っとらんわ」

そう言うと、ディランの顔がみるみるうちに満面の笑みとなる。気のせいか、アイガード越しの瞳がきらん、と光った気もする。

「じゃあ悪戯だ!」
「は」

悪戯だ悪戯だ、と連呼しながら、ディランはリカの手を引いて歩き出す。何処へ行くのか、と疑問に思っていると、視界に獣の耳を付けた少年が映り込む。

「マーク!リカに悪戯だよ!」
「はい?」
「ディラン、一体何処に…、リカ?」

視界に映り込んだのはマークだった。彼はどうやら狼男に扮しているらしい。ディランはしきりにリカに悪戯するんだ、と言いながらマークに耳打ちしている。
そんな用意周到な悪戯を仕掛ける気なのか、とリカは段々不安になってくる。
マークはディランからの耳打ちに一瞬顔を赤くしたが、直ぐにいつものクールな表情に戻った。
暫くすると相談が終わったのか、二人それぞれリカの両隣に立つ。

「来年はちゃんとお菓子を用意しといてね」
「仮装も一緒にしような、」

そう言われ、頷こうとした瞬間、リカの両頬に柔らかい感触が当たる。そしてそれは、二人から贈られたキスだと理解する。
ディランは陽気に奪っちゃったー、とはしゃぎ、マークは照れくさそうに笑っている。
リカも段々恥ずかしくなってきて、マークと同じ様に照れくさそうに笑った。
そして今から来年のハロウィンを待ち遠しく思うのだった。






- ナノ -