土に種を蒔き、軽く土を被せてそこに軽く水を掛けてやる。これでこの作業は終了。夏の終わり、山中とゆう事もあり、恐らく一番近い町等よりも幾分か涼しいはずの中でも、こうした土を弄るとゆう作業は結構疲れる。ウッソは首に掛けていたタオルで汗を拭いながら、ふと視界に映り込んだ指先を見る。指先は土に汚れていて、それは爪と指の間にも見事に残っていた。洗っただけで落ちるかな、と思いながら、何故自分はスコップを使わなかったのだろうと考える。そしてその答えは簡単で、只何となく、直接土に触りたいと感じたからだ。丸めた自分の指先を凝視していると家の中からシャクティが出てきた。

「もう終わったの?」

うん、と答えるの同時に視線でどの辺りに種を植えたのか訴えると、簡単にシャクティはああ、と納得した声を出した。

「あそこは陽当たりも良いから、きっと直ぐに芽を出すわ」

嬉しそうに話すシャクティを眺めながら、ウッソは妙な達成感を得ていた。何となく、あの場所に植えたなら、こうしてシャクティは喜んでくれるんじゃないかな、と考えていたウッソには、このシャクティの反応は非常に喜ばしいものだった。

「花が咲く頃には、カルルは喋れるようになるかな?」
「立って歩けるようになるのが先じゃないかしら」

二人でたわいない会話をする姿は、十代前半の、年相応のものに映る。しかしその表面の裏側でこうして種を蒔きやがて芽を出し花が咲くその日を心待ちに出来る事の幸せを、二人は強く感じていた。
気付けばウッソは未だ土で汚れたままの手でシャクティの手を握っていた。彼女はその感触で、彼の手が土で汚れている事に気付いたが、敢えて何も言わなかった。ウッソがその手をまた土で汚せる事が、シャクティには無性に嬉しくて仕方がなかったから。

「もう、どこにも行かないよ」

どちらともなく呟かれた言葉は、決して違える事のない約束となり、やがて花開く種に溶けた。








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