コレと同系列
※京子不在

 もう処理の終わった書類をクリップで纏めながら、この書類の束を全部シュレッダーに掛けたらダメだろうかと考えて、ダメだろうなあと瞬間で当然の答えが弾き出されて手にしていた書類をデスクの上に放った。戦闘は未だに嫌いだけれど、事務作業はそれ以上に嫌いだった。というよりも根本的に向いていないような気がした。では綱吉に何が向いているのかと考えても自分では良く分からない。くだらないことを考えてないで仕事しろとこめかみに銃口を押し付ける元家庭教師だとか、マフィアのボスが大分板に着いてきたなと褒めてくれる兄弟子を眺めても、思考は止まらないし板に着いたとは慣れと諦めの境地でありそれも昔に比べればの話でしょうと卑屈にしか受けとめられない。指に嵌った厳ついリングを受け入れたのは確かに自分自身だけれど、割り切ってよしボンゴレを立派に率いて行きますので任せて下さいとはならないのだ。

「俺に休みをください」
「ボスが寝ぼけたこと言ってんじゃねえぞ」
「寝ぼける程寝てないから休みが欲しいんだよ」
「お前が仕事溜めるからじゃねえか」
「俺が計画的に物事進められる人間だと思ってるのお前」
「はっ!」

 ボスの執務室にあるデスクと椅子に綱吉がへばりついて、サインやら押印やら処理しているのを、元家庭教師はソファに座り足を伸ばして組んで低いテーブルの上に靴を履いたまま乗っけている。お前それ部屋出る時机拭いて行けよと綱吉は注意したかったけれど、生憎彼が布巾を手にして家事紛いなことをしている姿は長い付き合いの中で一切見たことが無いし似合わないと思ったので黙って自分の要求だけを言葉にしたら、鼻で笑われた。可笑しい。だって自分はここ数か月丸一日休みだった例がない。確かに仕事を溜める自分も悪いが、仕事がない日だってないのだからペースダウンだってしたくなるだろうに。ここには一般的感性を持って自分を思いやってくれる人間が少な過ぎる。というか、いない。
 ボンゴレのリングと並べたくなくて、チェーンに通して首からぶら下げているシンプルな指輪に触れる。機会を逃すと仕事に埋もれて一生が終わりそうだからと意を決したプロポーズは事前の緊張とか計画だとか打ち砕くほどあっさりと相手の京子が頷いたことにより成功に終わった。当時綱吉は既にボンゴレのボスになっていたけれど、だからこそイタリアで式を挙げると面倒なことになりそうだったので結婚式は日本でお互いの身内と友人だけを集めてささやかに執り行った。京子の親友の花だけは綱吉に金があるんだからもっと盛大にやれよと突っ込んできたがそれはあまり綺麗な金じゃないのでと言う訳にも行かず、冗談で金属探知機とか設置するの面倒じゃないと言って誤魔化した。銃器の持ち込みをするような連中を招きたくはなかった。そんなやり取りをしたのがもう三年も前のことになる。
 最近でもイタリアに作った自邸にもゆっくり腰を落ち着けていられない。京子の待つ家にはいつだって帰りたいから向かうのだけれど、直ぐに仕事だからと食事だけしてボンゴレの本部に戻って来なければならない場合が殆どだった。それでも、最近では危ない仕事は少なくなっているので京子は笑って送り出してくれる。それが、綱吉には堪らなく申し訳なくて心苦しい。仕事が好きな訳じゃない。だけど仕事を言い訳に家庭を蔑にしている自分に、かつて軽蔑した父親の姿が重なって、親子だからってわけじゃないさと一人呟けばまるで全て見透かしているとでも言わんばかりに元家庭教師がにやりと口角を釣り上げるのが見えた。相変わらず嫌な奴だ。
 デスクに置かれた卓上カレンダーを見ればごちゃごちゃと予定が書き込まれていて今日が何日なのかもよく分からない。いくらボスの執務室だからってこうあからさまにボスの予定を書き込んでいい物なのだろうか。そもそも書き込んだのは俺だったかともう思考すら覚束ない。

「そういえばさー、父さんと母さんの結婚記念日って今月だったよなー…」
「ああ、丁度一週間後だな」
「……ちゃんと今年も祝うのかな…」
「今年は旅行に行くって家光の奴昨日日本に飛んでったじゃねえか」
「え…俺知らないんだけど…」
「言い忘れたんじゃねえか。アイツ最近奈々のことしか考えてなかったからな」
「あー…そう…良いんじゃない」

 未だラブラブなのは良いことだからと、カレンダーの二人の結婚記念日の日付を指先でつつく。そういえば、最後に二人におめでとうと告げたのはいつだったかなあと思い返そうとして、去年は確か敵マフィアの殲滅を決行する日と被ってて時差と気にしてたら言えなかったんだよなあという虚しい現実を思い出した。奈々は、自分達の記念日にはおめでとうとわざわざ電話してきたというのに。尤も、ちゃんとお祝いしなさいよという余計なお世話を焼くのが目的だったようだが。さて、今年の自分の結婚記念日には果たして休みが取れるだろうか。

「あと――、二ヶ月ちょいかあ、見通し立たないなあ」
「日頃の行いが大事って訳だな」
「はいはいそうですねー」

 正論過ぎて何を言っても言い訳になるから議論は此処で終わり。毎日こつこつ取り組んでも終わりそうにないんですけど。毎日の仕事量を顧みて、今から既に無理と投げ出したくて仕方ない。綱吉らしくないけれど、雲雀みたいに敵をぶっ飛ばしているだけの方が大分気楽かつ迅速に処理できるように思えてしまう。マフィアはなかなか大変だ。
 日が暮れて、食事だけでもと京子が待っている自宅へと帰れば最近忙しそうだねと心配そうに此方を見てくる彼女に力なく曖昧な笑顔を向けるしかない。

「今度の結婚記念日は一緒に過ごせたらいいね」

 仕事量に辟易することは否定できないけれど、最愛の妻に可愛らしくこんなこと言われたら、綱吉が頑張らない訳にはいかないのだ。こういう単純な所が自分で気付いてしまうと呆れる以外どうにも出来ないけれど、ふと自分の両親を思い出してまあ記念日だからと自分を激励してあと二ヶ月ばかり仕事に精を出そうと思う。自己完結したら、仕事は二ヶ月後もあるんだぞと元家庭教師に銃口を突き付けられた。痛い。


―――――――――――

空も飛べぬ僕だけど
Title by『にやり』




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -