※トウトウ・チェレベル前提
※BW2発売前妄想・捏造



 これまでふらふらと世界中を旅していた幼馴染が、最近おかしな方向にふっきれてしまったらしく以前よりもよく笑うようになったとチェレンは思う。それがサブウェイで出会った少しばかり幼馴染と見てくれが似ているが中身は正反対のトウコとかいう女の子のおかげであることは明らかだった。小さい頃からずっと一緒だった幼馴染に、自分たちがいくら悩んでどうにかしてやろうとも出来なかったことを赤の他人があっさりとなしとげてしまったことはやはりそれなりに複雑だったけれど、近過ぎないからこそ出来たことかもしれないとチェレンは割り切ることにした。近過ぎて、新しく入り込む懐の隙間など、自分もベルもトウヤに伺うことなどもう出来ないし、する必要がなくなって随分と経つのだ。
 旅の途中でNとすれ違ったりもしたらしい。思わず追いかけ後ろ髪をひっつかんでお前の言うことは色々とわかりづらいんだよ馬鹿野郎とこれまでトウヤの中でこんがらがっていた事柄を解くのではなく投げ出すように叫んでやったそうだ。きょとんと瞬いた後盛大に声を上げて二人して笑い合ったらしいから、嘗て世界の命運を担った二人の少年はもうただの友達に落ち着いたのだろう。すっきりしたとライブキャスターで報告してくれたトウヤの現在地は、相も変わらずイッシュ地方を飛び出していたけれど。時代が進歩すれば地球上のどこにいたって電波は届くだろうけれど、それはイコール距離が開いても大丈夫ということにはならない訳で。チェレンのもう一人の幼馴染でいつしか恋人の座に収まっているベルなんて時々寂しそうにトウヤに会いたいねなんて俯いてしまうから困る。チェレンの場合、僕がいるんだから良いじゃないだとか、恋人を前に幼馴染とはいえ他の男の話とかするのなんて方向には転ばない。寧ろそうだね会いたいねなんて二人して俯いてしまうから寂しさが加速してしまう。せめてと絡めた指先に、恋人という理由があってよかったと思う。トウヤを想って寄り添うには、チェレンもベルももう随分と自分の道を歩き始めてしまっていたから。全部放り出して迎えになんていけないのに、懐かしんで寂しがるばかりではいつしか身動きが取れなくなってしまいそうで怖い。

『この間サザナミタウンでトウヤに会ったよ!』

 そう、嬉しそうにベルから報告を受けたのは二週間ほど前だ。アララギ博士の助手として、時には自分で研究課題を設定して現地調査に出掛けることのあるベルはある意味チェレンより精力的かつ活動的だった。カノコタウンに戻る道中からの連絡に、チェレンはもうトウヤが元気だったかと尋ねるくらいしか出来ることがなかった。一緒にいるという連絡ではない以上、彼はもうまた他の地方や場所に移動してしまっているだろう。なんでもサザナミタウンの海岸からなみのりで東へ突き進んだら何日ほどで別大陸に到着するか悩んでいたらしく、流石のベルも話に乗っかるよりもそらをとぶで行けばいいじゃないと注意しておいた。アクティブな冒険は結構だが大海原で何かあったら生死の確認すら取れないので幼馴染としては見過ごせない。
 話題を変えようとトウコと一緒じゃないのかと問えば何故そんなことを聞くのかといった風に首を傾げながら今頃またサブウェイでバトルしてると思うよと定かではない情報が帰ってくる。付き合っているんだよねと続けて問えば付き合っているけれど四六時中一緒にいる訳じゃないとのこと。お互い離れたから浮つく性根の持ち主ではないとのこと。

「ベルそれはのろけだよ」
『やっぱり?私たちもそうだよって言っとくべきだったかな?』
「いや、それはいいけど」

 ライブキャスターでそんなやりとりをして、だけど元気そうだから安心したと二人して息を吐いた。本当はトウヤに会えなくともベルに直接会って話を聞きたいとも思った。ただチェレンがジムリーダーとして活動を開始する直前だったので何かと準備で忙しくジムから離れることが出来なかったのだ。遠出して何か事件に巻き込まれてポケモンたちを負傷させたくもなかったので、結局チェレンはベルとの会話はしばらくライブキャスターのみで行っていた。会いたいねとは言わないけれど、落ち着いたらベルに会うためだけに時間を作ろうと思うくらいには、彼にとって彼女のスペースは広いのだ。

「バトルしようよ!」
「――断る」
「ジムリーダーのくせに!」
「元とはいえチャンピオンのくせにバッジ集めするのやめてくれる?」

 チェレンがジムを開いた初日のいの一番。雇われトレーナーたちをものの数分で突破して姿を現した挑戦者はここ数か月姿を見せず話中にしかいなかった幼馴染のトウヤだった。唖然と固まるチェレンを前にトウヤは昔よりも明るい笑顔を浮かべながらバトルを申し出た。勿論即答で断る。ジムリーダーを倒した先に挑めるチャンピオンの座に至ったことのある人間が何故一シティのジムに挑戦しに来るのだ。
 説明を求めたところ、先日ベルに会った際にチェレンがジムリーダーになることを聞いたらしい。幼馴染の門出ということもあり様子を見たいもしくは祝いたいと思ってやって来たのは良いのだがいざこのジムの前にやってきたら懐かしさから一転してポケモンバトルをしたくなったらしい。新規ジムの最初のバッジを得ようと開く前から待機していた何人かのトレーナーには腕ならしという名のバトルを持ちかけ負かしてきたらしい。
 ――なにやらかしてくれてんだこの野郎!
 とはキャラが違うので言わないが。随分いきいきとした表情のトウヤを見ながら、彼は今こんな顔で世界を見ているのかと感傷的な気分になる。大人になりきったとは言わないが、チェレンもベルもこの先歩んでいく道はもう決めた。何度か決断をして転機と呼ばれる事柄はあろうともチェレンはジムリーダー、ベルは研究者として生きる道を大きく逸れることはないだろう。そしてトウヤは、きっとこれから決めていくのだ。心に纏わりついた重石を捨てて、軽くなった心で見る世界はもしかしたらあの日三人で一緒に初めの一歩を踏み出した時と同じように輝いているのかもしれない。

「チェレンどうしたの?」
「――別に何も。ところでバトルするとは言ってないからジャローダをボールから出すのはやめろ!」

 トレーナー同様やる気満々のジャローダに舌打ち寸前のチェレンに、途中トウヤに負かされたトレーナーたちがやってきて「敵取ってください!」と声を揃えるものだからとうとうチェレンも叫んだ。

「ジム戦ってそういうんじゃねーし!!」

 結局その日、このジムで行われたバトルは元チャンピオンとその幼馴染の一戦のみ。その白熱した戦いの噂が尾ひれをつけて広まってしまった所為か、チェレンのジムはある程度実力をつけてから挑んだ方が良いと思われてしまい、暫くは暇な日が続くことになる。


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あのビルの向こうに世界がある
Title by『ダボスへ』



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