※現パロ、シロちゃんが♀化、能勢は思春期で心配性


 純真と呼んでやればさぞ聞こえが良いだろう。無邪気でも良いかもしれない。だけど無防備で鈍感に誰にでも微笑み触れてはいけないと、もう能勢は何度も彼女に説いたのだ。
 馬鹿だとは思わない。だけど学習もしないのだ。幼馴染として寄り添い続けた歳月の中で、能勢が吐いた溜息の割合を分析すればその大半の原因が時友にあることは明らかだった。

「久ちゃん?」
「なに、」

 能勢に壁に押し付けられた時友は不思議そうに、でも少しだけ不安を滲ませて彼を見上げる。
 見知らぬ他人には全く警戒心を持たないくせに付き合いの長い自分には警戒するのか。能勢の中で遣り場のない怒りがふつふつと湧き上がって来る。
 時友の顔の両脇に手を着いて彼女の行く手を塞ぐ。それでも彼女が全く嫌がったり逃げ出そうとする素振りを見せないことに、若干の満足感を得る。

「…俺ならお前に何もしないって思ってんの」
「何か…するの?」
「さあ、シロ次第かな」

 時友の頬に右手で触れる。大きく瞬かれた瞳は濁ることなどないままに育ってきた。そして、いつだってそんな彼女の側に能勢はいた。いつだって一番にシロは自分を頼る。それが能勢の時友への優越感で、真実で永遠だと思っていた。
 だが、成長するに従って自分から離れていく時友に、能勢は少し失望し嫉妬した。女の子として見るには、時友は単純で活発で純白過ぎた。恋の二文字を知らずに育ってきた彼女は、出会う人間全てに屈託無く接してしまう。それが全ての人間に単純に届くものと、彼女は疑わない。
 疑うのは、いつだって能勢の役目だった。好奇心に任せてふらふらと人にも物にも寄っていく彼女の手を引き連れ戻すのは自分の役目なのだと信じていた。シロが体育委員会なんて所属して、毎日のように自分の知らない場所で自分の知らない誰かの背中を追って走り出すまでは。
 幼稚な独占欲だとは自覚している。子離れしろだなんて検討違いな言葉も、級友から何度も受けた。だがもう違うのだ。シロは、自分が庇護すべき幼子ではない。手に入れたい愛すべき女の子なのだ。
 追い詰めて奪ってしまえば。もう一度シロは誰のものかを、彼女自身に刻んでやらなくてはいけない。未成熟な彼女が、恋なんて新しく広い世界に飛び立ってしまう前に。
 物騒な気配を宿した瞳を隠そうともせず能勢は時友に顔を近付ける。それでも彼女は一向に顔をそらさない。

(…何されてるか、分かってんのか)

 欲に任せて突っ走る一方、微かに残る冷静な思考が、あまりに異性に無頓着なシロを諫めたがる。突き飛ばしたって、今の彼女の状況からすれば誰も責めないのだから。視線すらさまよわせず、真っ直ぐ能勢を見詰める時友は、きっと微塵も彼を疑わない。疑う理由がないと思っている。
 そんな現状を忌々しく感じながら、嬉しくもあるちぐはぐな自分。

(…好きだ、なんて)

 今どんなに気持ちを込めて囁いても、シロには届くまい。誤った処理をされた能勢の気持ちはシロの内側、友人を入れるフォルダに乱雑に並べられるだろう。流石にそれは、辛い。

「久ちゃん?」

 昔から治らない、シロの癖。久ちゃんと女の子みたいに自分を呼ぶことも、気を抜くとすぐぽけっと口が開いてしまうことも。
 もし、そんなシロの口に、この場で噛みついたら彼女はどんな反応をするのだろう。恥じらうなんて予想の段階からまずありえない。数度瞬いて不思議そうに自分の名前を呼んで、適当に誤魔化せば彼女はきっとあっさりその言葉を鵜呑みにするのだろう。
 既成事実。一瞬、能勢の頭をよぎった言葉。いやいやと否定するものの視線はずっとシロの口元から外されない。慌てて視線を下げても映り込むのは彼女の太股なんだからもう能勢は白昼堂々と愛しい幼なじみの唇を奪った。



―――――――――――

おまえの所為だというのにね
Title by『joy』




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -