※(未来)捏造注意
※ヒロなる娘視点




 今日は私のパパとママの話をしようと思います。
 私のパパとママはとっても仲良しです。結婚して夫婦になったのだから、仲良しなのは当たり前だと思うでしょう? けれどそれは夫婦という関係の根っこに対する偏見であって、私が言っているのは毎日目に見える二人の様子のことです。
 ママは朝が苦手です。大人なので、寝坊はしません。小さい頃は、毎朝てんやわんやの日々だったそうですが。少なくとも私が生まれてからはきちんと目覚まし時計に従って起きているそうです。ただ、寝癖がひどいのです。髪質の所為でしょうか、お泊り会をしたことのあるお母さんのお友だちからは怪獣みたいと言われるほどママの寝起きの髪はボカンッと爆発しているのです。私ですか? ご安心ください、私の髪質はパパ譲りです。ママのことは大好きですが、ここだけはパパ似で良かったと思っています。
 私が起きて朝ごはんを食べにリビングへやってくる頃までに、ママは身支度を整え終わっているのですが人間後ろに目がない生き物ですから、時々後頭部の寝癖がそのままになっていることがあるのです。私がそれを指摘すると、ママは大慌てで持っていたものを落としそうになります。そんなとき、決まって先にテーブルに座っていたパパが立ち上がってママの髪を撫でるのです。その手付きの柔らかいこと、眼差しの優しいこと。世界中の人々に見せつけたい! どうです? 私のパパとママは世界で一番ラブラブでしょうと!
 ごめんなさい。取り乱しました。
 ママはDearCrownの店長さんをしています。何でも中学生の頃からの夢だったとか。当時はPrismStoneというお店で店長体験をして経験を積んだそうです。今でも仲良くしているお友だちとはこの頃出会ったとも聞きました。それから、パパと出会ったのもこの頃だそうです。
 私の家に遊びに来る友だちは、ママを見るとその雰囲気がDearCrownっぽくないとよく言います。確かに自宅にいるときのママはふにゃっと言うか、ふわふわ、キラキラ、ちまちま…。ううん、ぴったりの擬音が思いつきません。要するにデキる女には見えないのです。それでも充分可愛らしくはあるのですが!

「あのね、××ちゃん、この世界には今プリズムの輝きで満ちてるの。いつか××ちゃんにも見えるといいなあ」
 ママはよく、私を膝に乗せながらこう言いました。ママは中学生の頃からプリズムショーで世間の人気を集めていたことがあって、未だに根強いファンがいるようです。本人はあまりわかっていないようですが、ママのお店にはママを目当てに覗きにきている人もいるとパパが言っていました。とても歯痒そうな顔をしていたことはパパの名誉の為に黙っておきましょう。娘の私を心配するのと同様にママにも過保護になるところが、玉に瑕。
 中学生の頃、ママには一生忘れられない一年がありました。私にも会わせたい、可愛くて、不思議で、煌めいて、強くて、儚い女の子に出会ったのだと言います。もう会うことはきっとできないだろうけれど、あの日の姿を見ることはないけれど、もしも、本当にもしもこの広い世界のどこかですれ違うことがあったのならば彼女がどんな姿をしていても気付くだろうと、ママは少女のように無邪気で、大人の女性のように慈愛に満ちた瞳で言いました。ママの言葉の矛盾が気になって、私はつい「その子は死んでしまったの?」などと突飛のないことを尋ねたのです。まるで生まれ変わることを期待するような物言いだったからでしょう。けれどママは笑ったまま首を振りました。

「その子はね、この世界のどこにでもいるの。彼女が伝えてくれた輝きが失われない限り、ずっと――」

 そう言って私を抱き締めたママの小柄な体が、その時はずっと大きく感ぜられました。


 私のパパはエーデルローズの主宰をしています。馴染みのない言葉ですがどうやら一番偉い人ということらしいです。本当は、パパもプリズムスターとしてエーデルローズに属する人間としてショーをして動く側にいたかったようですが、それ以前の主宰さんが突然退くことになり何やら事情があって運営に関わるようになったそうです。時々はライブを行っていますがチケットは未だに即完売の勢いで、結婚して子どもがいることを公表しているのにすごいと評判です。しかしどうしてか、ママのお友だちにはあまり評判がよくありません。嫌われてはいませんが、まさかママをお嫁さんに貰うとは思わなかったそうです。この場合、貶されているのはママではありません。ママのお友だちはママをとても大事にしてくれます。まるで妹を扱うが如く。ついでその娘である私にも諸々親切です。
 パパが、ママのことを女の子として好きだと自覚したとき、パパは既にアイドルとして活動していたのでどうしても水面下で距離を縮めようと動いていたのだそうで。周囲からするといつの間にか自分たちの大切なママをたぶらかした男、というのがパパに貼られてしまったレッテルみたいです。頑張って、パパ。
 パパとママはどちらも素敵なプリズムショーをすることで有名でした。そしてママは特に、プリズムの輝きを広めることに熱心でした。というのも、中学時代のその大切な一年で出会った件の少女からの置き土産なのか、もともと音楽の「色」を見ることができるという体質に加えプリズムの輝きも見ることができるようになったのです。それはプリズムショーを観ているときに関わらず、この世界に満ちている輝きそのものを見、感じている。そしてプリズムショーを通してその輝きが一層光を増したとき、ママはとても嬉しそうに笑う。
 ママにとってプリズムショーは世界でした。宝物といってもいいでしょう。大切な場所と、友だちと、夢を与えてくれたもの。私にはまだ明確な夢と呼べるビジョンが描けないからわからないけれど、ママの過去を語るときの表情を見ていればそれがいかに大切なものか察することができます。パパは、そんなママを尊いとも危ういとも言いました。だから傍にいようと決めたと言いました。ママは時々、両手に収まりきらないほどのものを抱えていしまうことがあるから、それなら自分も一緒に抱えればいいと思ったんだと笑いました。私を抱き締めるママごと二人同時に抱き締めるパパは、昔とても大切なことを見落としてしまったことがあるそうです。だから、大切なことを大切にしたまま生きているママのことが大好きなのだとも。

「××ちゃんだって、私の大切な宝物だよ?」

 ママに直接、ママは思い出が宝物なのと尋ねると決まって私のことも大切だと言ってくれます。勿論疑ったりはしません。ママは本当に子どもを大切にしてくれるママです。ママ側のおじいちゃん、おばあちゃん譲りの愛情です。パパはそうやってじゃれ合う私たちを幸せそうに見つめて来るので年々くすぐったさが増して仕方がありません。
 でも私は知っているのです。私が居ない所で、パパとママが二人きりになったときの空気はくすぐったいどころの話ではないということを。ママは可愛らしい童顔ですし、パパは整った顔立ちのイケメンです。正直、私くらいの子どもがいるようにはパッと見思えません。そんな見た目の二人が、実際結婚して子どもがいるとは思えない、恋人のような空気でいちゃついていることを私は知っているのです。私が「空気を読む」という芸当を身に着けたのは、私がもう眠ってしまったと思ったパパとママがリビングのソファに並んで座っている姿をこっそりドアの隙間から見てしまったときです。
 私のパパとママは、今でも恋人同士のように仲睦まじくそれでいて娘の私のことも大切に愛してくれる自慢の両親なのです。
 ところで。プリズムショーに興味を持った私の悩み事と言えばパパとママのどちらに教えを乞えばいいかということです。両方に頼めばいいのでしょうけれど、二人とも一応は仕事場が別々で忙しいですし。エーデルローズに入ったら、主催の娘という立場は居心地が悪そうですし。DearCrownはプリズムショーを教える場所ではありませんし。ううん、どうしましょう。
 ああ、それからもうひとつ。今日、プリズムショーの大会を友だちと見に行った帰り道に不思議な卵を拾ったのです。ダチョウの卵でしょうか。大きさからするとそれくらいしか思い浮かびません。けれどひとりでにぴょこぴょこ動き回る上に執拗に私を追い駆けて来るのでつい持って帰って来てしまいました。先程その殻に罅が入り始めたのですが、ちょこんとそのヒビの隙間から覗いたのはピンク色の――そう、ペンギンの翼のような……。
 あ、パパとママが帰ってきました! 一緒だなんて珍しい。きっと手を繋ぎながら帰ってきたに違いありません。この卵から何が生まれるにせよまずは二人に許可を貰わなくては。
 それからプリズムショーがやりたいと相談してみましょう。以前テレビで見た、ママがやっていたようなプリズムライブもできるようになりたい! 私の決意を後押しするかのように、腕に抱えた不思議な卵が揺れました。決めました、どんな姿の生き物が生れようと私はあなたをこの家に置いて貰えるよう全力を尽くします。名前はそうですね、ピンク色の翼と、卵の殻の模様から――ラブリンなんてどうです?



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うつくしい魔法にはなれましたか?
Title by『春告げチーリン』





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