観月小鳥の目に映る神代璃緒という存在は同性にして「素敵」と吐息を漏らさずにはいられないほどの輝きを放っていた。外見の美しさならば、身内贔屓にしたって小鳥の母親もなかなかのものがあるし、人間としての生命エネルギーに溢れた快活さという魅力なら遊馬の姉である九十九明里という身近な女性で常々感じてきた。けれどどうしてこうも神代璃緒という女性に惹かれてしまうのか。柔らかな物腰と相手をも律する凛とした佇まい。中学生になるにつれて如実に表れる性差というものを物ともしない身体能力。一年もの休学期間を経て学力でも一向に後れを見せないその背景に、兄への献身という努力があることを知った。誰かの為に身を賭せる強さを、小鳥は信じている。けれどそれを彼女自身に映しては、自己満足を美化しているだけだとどうにも自信が持てない。だから他人に似たものを透かしているなんて卑怯だろうか。けれどこの憧れは嘘ではなかった。この目で見ることはできなかったけれど遊馬は見たという。兄の弱みになどならないと、自分の身は自分で守ると奮い立った闘志と氷の刃で見事バリアンの資格を打ち倒した璃緒の姿を。その日の帰り道、今までだって誰かに教えを乞う機会はあったのに彼女に向かってデュエルを教えてくださいと戯れのようにしか響かなくとも願ってしまったのは何故だろう。
「――小鳥さん?」
「璃緒、さん」
「大丈夫? ぼーっとしていらっしゃるようだけど」
「はい、大丈夫です」
 ああ、羨ましい。小鳥と璃緒の視線の先では遊馬と凌牙がデュエルしている。その気になれば、璃緒だってあの二人と並び立って戦うことが出来るのだ。小鳥には出来ない。小鳥はただ見ているだけだ。
 ああ、羨ましい。遊馬たちとお揃いの璃緒が。璃緒とお揃いの遊馬たちが。この感情は、きっと彼女のようには美しくない。そう思うとひどく気が滅入った。璃緒が遊馬たちへ激励の声をかけるたび、揺れて視界に映る長い髪が蠱惑的に小鳥に囁きかけるのだ。
 ――ああ、璃緒さんになりたい。


20150204



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