「本当に帰っちゃうの?」
 そう、恨めしそうな瞳で見つめてくる吹雪に、春奈は彼の耳に選択の余地が残らないよう意識して、きっぱりと「勿論です」と返事をした。だってそうだろう、修学旅行でやってきた北海道、自由行動の日をフルに活用して吹雪と会っていた――この落ち合いのを成功させようと、春奈は同じ班の友だちに先生と鉢合わせした時など様々な事態に口裏を合わせて貰う為に方々頭を下げたのだ――春奈には、帰る以外の選択肢はないのだから。場所は既に空港で、今は最後の自由時間。見送りに来ている吹雪はきっと学校をサボっている。
「吹雪さんが、私のこと養えるくらいの人だったら帰らなくて良かったんですけどね」
「――仕方ないじゃない、僕、高校生だし」
「そうですよ? だから私は帰るんです。集合時間になっちゃいますしね」
 吹雪には、時々意地悪な物言いで怯んだ隙に正しい間合いを取り直すのがいい。春奈はそう思っている。吹雪を怯ませる言動は、いつだって春奈を自分が嫌な人間になったような苦々しい気持ちにさせるけれど。
「ねえ音無さん!」
 本当にもう時間がないのだ。点呼が始まる前に、春奈は他の生徒たちが集合している場所まで戻らなければならない。
「次、音無さんが北海道に来るときは絶対に帰さないからね!」
 吹雪の自信に満ち溢れた瞳が春奈を捕える。次、軽々しく足を運べる場所ではないけれど、だからこそ彼の決意は本物なのかもしれない。ああ、でも真偽を問うよりもまずはその言葉に二人の未来の在り様が映っていることを気付いているかどうかを確かめたい。言い出しっぺはもしかしたら春奈かもしれないけれどそれにしたって大胆な。どうか、知っている人に見られていませんように。
「――そうですね、吹雪さんが私を帰さないでくれたら、それはとっても素敵ですね」
 こんな公衆の面前で行われた、プロポーズまがいのやりとりを。


20141102



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