ガンプラバトル選手権の全国大会を終えたセカイが今度は自分の手で自分だけのガンプラを作りたいのだとシアの元へ転がり込んできてから数日。セカイに好意的なシアは決勝戦で負かした相手の元へ晴れがましい笑顔でやってきた彼を二つ返事で迎え入れた。全力で臨んだのだ。悔いはある。だが惨めさはなかった。
 シアの兄であるウィルフリッドも、初めは眉を顰めたけれど――妹が強引にセカイをかっ浚ってきたのではと勘違いしていた――全力をぶつけ合いライバルと認めたセカイと全国の舞台が終わり各々静岡と東京というそれぞれの場所に帰って行った矢先にまた再会できたことは素直に喜ばしいことだった。お互いの愛機は激戦の中で壊れてしまったので、即リベンジを申し込むことはできなかったが。妹に一からガンプラ作りを教わっているセカイを眺めているのは楽しかった――だがシアには変なものを見る目を向けられてしまった――。
 そんなある日。
「セカイ、これ、やらなくていいの?」
「ああーー!! それ姉ちゃんに放り込まれたんだよな――!!」
「わ、真っ白」
「だってやってねえもん」
 セカイの鞄に洗濯した衣類を仕舞おうとしていたシアが、ふと彼の持ち物らしくない問題集の類を見つけ取り出して確認してみたところ一切の手つかず。ガンプラのパーツの断面にやすりをかけていたセカイはシアの言っているものが家を出る際に長くなるのならと姉に押し付けられた夏休みの宿題だとわかるや否や作業台の上につっぷしてしまった。夏休みに入ってからガンプラ一色のセカイの生活に勉強の入る隙間などあるはずもない。ユウマやフミナも同じ時間を過ごしていたのだから似たようなものだと強気を取り戻そうとするも、真面目なあの二人はきちんと宿題も済ませていそうな気がする。うなだれ、唸るセカイにシアはそんな彼も好きだと言わんばかりににこにこ微笑んでいる。同じ部屋に設置されているソファに腰を下ろして彼の作業を見守っていたウィルフリッドは首を傾げながら、何故そんな悲嘆に暮れる必要があるのだと言わんばかりに組んでいた長い足を解いた。
「今からやれば余裕で終わるだろう?」
 にこやかに言ってのけたウィルフリッドに、セカイはきっと睨みを利かせると唇を曲げて相手に非がないことはわかっていてもそんな言われ方をしては自分の学力が著しく低いのだろうと揶揄されている様ではないかと憤慨せずにはいられない。きっと彼は成績もいいのだろう――自分とは違って。
「……アンタとはガンプラバトルでしか分かり合えそうにないぜ」
 溜息と共に吐き出された言葉と、背けられた顔にウィルフリッドはピキッと擬音が聞こえる速度で固まった。シアは兄とセカイのやりとりの間、口を挟むことなく、辛抱強く待っていた。二人の会話が途切れたことでようやく時は来たれりと言わんばかりにセカイの元へと歩み寄る。
「大丈夫よセカイ、時間が掛かっても私が手伝ってあげる」
「ホントか!?」
「うん、ガンプラ作りも、勉強も、私が面倒見るから」
「ああ! 助かるぜ!!」
 ウィルフリッドに向けていた不貞腐れた顔から一転、満面の笑みで自分の手元を覗き込む体で近付いていたシアと見つめ合う。
 ――兄さん、もうちょっと頑張らないとね。
 セカイに応えるように頷いてから、未だに固まっている兄へ向けてウインクを投げる。そんなソファに座ったままセカイの気を引こうなんて考えが甘いのだ。
 夏休みの宿題は、今年のセカイと同様にガンプラに費やしてきたシアにとってもお荷物でしかなかったけれど。それでも今年は歓迎してあげたい気持ちでいっぱいだ。セカイを独り占めできる時間が増えるのだから。
 とはいえ、シアも鬼ではない。セカイと出会ったとき、ガンプラの修理を手伝ったのはその機体の美しさと作り込まれた度合いとはアンバランスに無知な彼に純粋に惹かれたから。そしてやっぱり、全国大会前の合宿といいながらもいつも通り退屈しているであろう兄を多少満足させる相手に持ち上げる為であったことは否定できない。
 だから、いい加減セカイを構いたい気持ちを認めてその重い腰を上げる気になったのならばウィルフリッドも彼の宿題を手伝ってあげるといいだろう。その為に、セカイの右隣の席は開けて置いてあげる。



20150411


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