時計を見ると、机に向き合ってからもう二時間が過ぎていた。背筋を伸ばせば固まっていた背中の筋肉がさも窮屈だったと悲鳴を上げる。開いていたノートには小さな文字がびっしりと並んでいる。学校の勉強とは全く関係ない、けれどバンの人生には学校での勉学よりも大切な意味を持つ学習。
 LBXの開発者になりたい。バンが言葉にすれば彼の父親を知っている人間は「父親のように?」と尋ねてくることもある。それも勿論あるけれど。バンは頷いて、この続きを言葉にはしない。父親への憧れだけで未来を選ぶことはできない。LBXが好きだから。わかりやすく、また追及を避けるべき言葉として適切なのはこの表現だろう。LBXが好きだから、LBXをホビーとして正しく世に留める為にLBXで戦わないで済む世界が欲しい。もしもLBXがホビーの世界を飛び出すならば、それは人命救助や宇宙開発や、誰かを傷付ける用途とはかけ離れた場所であってほしい。バンは己の未来を、恐らくは大半の同級生たちよりもずっと早くに選び定めた。その為の努力は惜しまなかったし、LBXに触れない日々を過ごした。いつの間にか下がってしまった視力に、母親は「勉強のし過ぎも考えものね」と親らしからぬ言葉と共に肩を竦めバンと眼鏡を買いに出かけてくれた。
 その眼鏡を外して、目を閉じる。数日前、ジンからメールが届いた。内容は『短期間で構わないから、神威島で講師をしてみないか』というものだった。また『詳しい話はそのときにでも』と書き添えられていた。詳しい話が何を指すのかバンにもわかっていたし、数週間前の苛烈なテレビ放送にLBXを愛する者として憤りただ画面を見つめるしか出来なかった身としては真実を教えてくれるという申し出はありがたかった。それに、A国に留学して暫く連絡が取れなくなったジンを周囲がどれだけ心配したかも懇々と教えてやらなければならない。同い年の生徒がいる学園に教師として潜入とはどういうことだ。
 言いたいことは山ほどある。故に、バンはジンからのメールに二つ返事で了承の意を伝えた。自分に何かを教えられるかは不安があるが、座学がダメならLBXバトルで伝えればいいと前を向く。それができる学園のはずだ。或いは、そんな学園に生まれ変わって行ってくれるはずだから。
 それから、バンも久しぶりにジンとバトルがしたかった。あの、ジンとユウヤをA国に送り出すお別れパーティーの主役失踪騒ぎの中で行ったバトルがジンとの最後のバトルになっている。もう一度、ジンとバトルをしよう。バンは決めている。今度は、ひとつの困難を越えてまた新しいステージへ進まなければならないLBXと、そのLBXの未来の為に動き出す自分たちの決意を込めて、もう一度。


20140504


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