水平線から太陽が昇り始めるのを、ほうっと息を吐きながらじっと見ていた。
 ヨハンが地べたに座り込んでから、肩、頭、肩、と落ち着きなく動き回っていたルビー・カーバンクルが急に襟足をすり抜ける。髪が引っ張られて首を撫でる。くすぐったくて、ヨハンは思わずルビーを捕まえて両手で前に抱きかかえた。ペットではないから、滅多に抱き留めたりすること――ルビーの自由を妨げるような行為――はしないのだけれど、今ばかりは許して欲しいと見上げてくる赤い瞳に微笑みかけてから「ほら、」とヨハンは前を指差した。ゆっくりと昇ってくる太陽は美しいだろう。彼の言葉と感情へ同意の感嘆を示そうと、ルビーは結局その両手を飛び出して、その頭の上に飛び乗ってぴょんぴょんと数度飛び跳ねた。綺麗だと伝えようとしていることがヨハンにははっきりとわかる。出会ってからずっと一緒に過ごして来たから。家族だから。他の宝玉獣たちは常時姿を顕現させているわけではないから、デュエルのとき以外はなかなか姿を見せてはいられないのだけれどもその声はいつだってヨハンの耳に届いている。彼等と分かり合うことなど、とても簡単なことのように思えてしまう。それはヨハンだけの特別だった。
「――よう、ヨハン」
 まだ昇りきらない太陽を待たず、ヨハンの世界を覚醒させる鐘漏が鳴る。呼ばれた名前は自分のもので、けれどその形は何だって良かったのだ。見つけて欲しい、呼んでほしい、傍に来てほしい。湧き上がる感情の行き先はたった一人の相手の元へ。ずっと見つけたかった、呼びたかった、傍に行きたかった。出会ったその時から、自分と同じものを彼の中に見出して、けれどぴったりとは重ならないから、望んだものが手に入らない子どもがぐずるようにぴったりとくっついていたかった。それはヨハンが誰に打ち明けたこともないままに探し続けていた、彼の世界に散らばる宝石の輝きを理解してくれる友だちだった。
 暗闇が徐々に朝陽に払われて、青白い視界が温かく払われていく。振り返った視線の先に立つ彼は、まだ眠気眼で大きな口を開けてあくびしている。その傍らを飛び回るハネクリボーに「流石にまだねみーよなあ」と笑い話し掛ける姿に、ヨハンは緩む口元をそっと手で覆い隠した。
「おはよう、十代」
 この親愛を打ち明けるには、もう少し眠気覚ましの太陽が必要だと思うのだ。
 そうしてまた、ヨハンの幸せな、友だちと家族に囲まれた一日が始まる。


20150411


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