パシャッ。そんな音を脳内で再生してみた。目の前の茜と向き合えばそれは簡単なことで、妄想で重ねた現象はたとえ茜の瞳に自分が映っていたとしても透かしているのは神童だろう。霧野の卑屈さを知らず(興味も持たず)、実際の茜は霧野の隣に座っている。放課後の図書室は、テスト間際だというのに人気がない。これは何かの間違いだ。静か過ぎる場所も、霧野に興味がない茜が彼の言葉に誘われて二人きりの勉強会に着いてきたことも。秘め続けた時間よりも、今この瞬間の気まずさから逃げ出そうとして取り出した携帯は茜の手が霧野の足に押し沈めた。校内での携帯電話の使用は禁止。放課後ですが、ダメですか。霧野の視線の訴えを茜は取り合わなかった。取り出された歴史の問題集。積み重なった人類の歩みには興味がなかった。目の前にいる茜に、神童の歩みが気になった。憶病すぎて、自分でもなかなかどうして笑えない。静寂とロマンティックを履き違えるほど愚鈍ではないと過信している。だからこんな静かな図書室に二人きりでも告白したりはしないけれど。
 それにしたってそろそろ何か喋ってくれないと、霧野は茜に触れてしまいそうな左手を宥めるために人差し指で机をトントンと叩き続けることに限界を感じている。茜が動かし続けていた右手の、その中のシャープペン。芯が折れて、手が止まる。捕まえてしまおうか。霧野の視界はスローモーションとなり、音はまだ耳に届かない。



20140617


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