※Twitterにて「4時間以内に3RTされたら、大学生で一緒に暮らしてる設定で浮気と勘違いして喧嘩する迅×修の、漫画または小説を書きます」との診断にRT頂いたネタ。捏造過多なパラレル扱いでお願いします。
※迅→二十歳(大学生)、修→十六歳(高校生)で修愛され気味。



「ごめんね?」

 悪びれた様子もなく両手を顔の前で合わせる迅に、修はまたかと溜息を吐いた。視線を合わせれば端から相手のペースに飲まれそうで、せめてもの意地として顔は逸らしておく。もう何度目とも知れないやり取りに呆れてはいるものの、回を重ねるにつれ落胆や軽蔑の念が薄れて行く、嫌な慣れ方をしている。
 迅に浮気癖があることを知ったのは、元々は彼がひとりで暮らしていたマンションに修が一緒に住むようになってから一ヶ月ほど過ぎたころのことだった。修の高校進学を機に、大学生として気儘な生活を送っていた、かつ恋人である迅から誘いをかけて始まった共同生活の初めての危機であった。
 ボーダーとしての生活以外にも大学生としても表面上はとっつきやすい気さくな人間を装っているのか適度に顔が広く、付き合いと称して飲み会に参加することもある。高校生の修にはピンとこない話だったが、適度に友人との付き合いを大事にしなければならないということだろうと噛み砕いて理解した。その理解の浅さに罪はないが、迅はどうやら泥酔すると女性からのお誘いを断る理性が働かなくなってしまうらしい。一夜限りの関係は儚いが、節度がなくて汚らわしい。修としては自分との恋人関係を差し引いたとしても到底容認できない行為だった。
 さらに性質が悪いのは、迅がいちいち抱いた女性の痕跡を残したまま帰宅することだった。それさえなければ、きっと修は今だって迅が浮気しているなんて微塵も疑わずに大人しく彼を送り出すだけだったことだろう。
 女物の香水を残り香として纏っていたり、首元にキスマークが残っていたり、風呂上りに見た背中に痛々しい爪跡を見てしまったり。最悪だったのは、迅と寝た女性が定期を彼の荷物に紛れ込ませてしまったのではないかと疑ってマンションまで訪ねてきたときである。本人は留守にしており、応対した修は随分と訝しげな視線を向けられ居た堪れない思いをした。その時はどうにか親戚の者だと誤魔化したが、どれだけ時間を掛かっても自分が迅の恋人だと人前で名乗ることはないだろう。世間の目は勿論、修自身の生真面目さがそれを許さない。
 初めの頃は迅の浮気の痕跡にいちいち傷付いて、修を労わらない言い訳にもならない事後報告に食い下がることもできずにこっそりと泣いたりもした。迅には誠意とか真心とか人間なら誰しも持っているであろう優しさが欠落していると心の中で謗ってみても好きなものはどうしようもなかった。何より食欲が落ちたり寝つきが悪くなったりといった身体に不調をきたす動揺は、日中学校や玉狛支部で顔を合わせる人たちに直ぐにばれてしまう。そして修は驚くほど隠し事が下手だった。普段一緒にいる友人が、嘘の通じない遊真なのだから仕方がないと言えば仕方がないのだが。そしてその遊真と千佳が、一等修の不調に敏感でありまた心配性でもあった。
 修が他の誰にも言わないと言質を取ってから迅のひどい浮気癖なのか酒癖なのか、とにかく自分を悩ませている問題について打ち明けると二人は表情にはただ修を労わる感情だけを浮かべて彼をサイドから抱き締めてきた。癒されながら、内心では迅への評価を最底辺まで落としていることに気付かなかった修は二人に唆されるままお泊り会という家出を決行し、迅を大いに慌てさせた。酔ってさえいなければ浮気なんてしようとは思わないらしく(だが浮気しても悪びれないのが問題なのだが)、修が残した書き置きの出先に即座に迎えにきる溺愛っぷりに絆されてこれまで修は毎度迅を許し続けていたのである。
 だが流石に今回は修の腹の虫も怒りで収まらなかった。テスト前で根を詰めているときの出来事だったからとか。玉狛支部の皆で外食する誘いを断ってでかけた飲み会でまたしてもやらかしたからとか。迅との関係を心配するあまりとうとう千佳が泣き出したこととか。腕が鈍ると困るから久しぶりに黒トリガーで戦いたいのだけれど迅さんに相手をして貰おうかなと遊真が全く笑っていない瞳で言い放ったこととか。そんな風に他人に心配をかけてまで迅から離れられない自分に嫌気がさしていたとか。とにかくもう、諸々のタイミングが悪かったのだ。修の眼鏡の奥に光る瞳が、完全に据わっていた。

「異動します」
「え?」
「迅さんがこれ以上浮気するならもう、この部屋からも玉狛支部からも異動します」
「え」
「嵐山さんとか、結構前から本部に来ればいいのにって言ってくれてますし」
「え」
「忍田さんなら空閑のことも心配いらないそうですよ」
「え」
「三輪さんにもこの間偶然会ったんですけど、何やら心配してくれているそうで」
「え」
「高校への通学時間もここからと実家からじゃあそんなに変わらないんですよね」
「――すいませんでした!」

 修の目がよほど冷たかったのか、列挙した人物名がこぞってどこか修に甘い人種で危機感を煽ったのか。修の淡々とした口調と合わせて顔を青くした迅が、言葉の切れ目を縫ってがばっと修を抱き締めた。ごめんねと何度も繰り返し、肩口にぐりぐりと甘えん坊の子どものように頭を押し付けてくる。若干の酒臭さに顔を顰めながらも修はそれを引き剥がそうとはしなかった。
 異動なんて心にもないことを言い過ぎたかなと、迅の背をあやす様に叩く。だいぶ懲りたようだから、暫くは落ち着いてくれると嬉しいのだけれど。
 だがしかし。

「そもそも俺はメガネくん一筋なわけで、酔って記憶曖昧でその日初めて会った女と寝ることは申し訳ないけどはっきり言って顔も名前も覚えてないから浮気とは言わないんじゃないか」

 そんな最低な理屈を真顔で言い放ったものだから、修は迅の腹に渾身の右ストレートと「大人って不潔だ!!」という言葉を残して部屋を飛び出し、一週間ほど帰ってこなかった。その間、遊真と千佳の鉄壁のガードに阻まれて迅はまともに口を利く機会も与えられず、そもそも何だか面白そうだからという軽い理由で玉狛支部総員グルになって修を隠した。林藤に付き従って本部に出向いた際はすれ違う嵐山や三輪に微妙な視線を送られた。
 こういった針のむしろに座らされた経緯もあって、どうにか修に帰って来て貰った後の迅の態度は非常に殊勝なものであったそうだ。



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きみはきみの中のモンスターに勝てないの?
Title by『にやり』






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