※付き合ってる花黒+木


 朝練が終わり手分けして片付けを行う中、木吉はマネージャーである黒子の機嫌があまりよろしくないことに気がついた。機嫌が悪いとゆうか、落ち込んでいるとゆうか、怒っているようだった。仕事に個人的な感情を持ち込まない主義らしい黒子は、普段眉一つ動かさないような涼しげな顔をしているのだけれど、その実慣れるとかなり分かりやすい性格をしている。希薄な存在感の割に印象は強烈で、彼女に何か粗相をすれば構わないと流されるか、針のように辛辣な言葉で刺されるかだ。後者であるならば、既に何度も失態を犯しているから。親しい友人にならば、わりかし寛容的だと黒子本人は思っているし、木吉もまあそうだろうと思う。
 そんな彼女が、ありありと眉を顰めてスコアボードを片している。普段、黒子に面倒を見られ見ている火神はとっくに彼女の機嫌の機微に気付いていたらしくさっさと自主避難を決め込んで、ボールを片付けて部室へと戻ってしまったようだった。ならば仕方ない。可愛い後輩のことなのだから。そう木吉は決意して、その実黒子はこういう時に話し掛けて欲しくないと思っていることを知っている。でもまあ、可愛い後輩だから。構いたいのだ。

「黒子ー、おいでー」
「…?木吉先輩、早く着替えないと間に合いませんよ」
「うんうん、まあ来なさい」
「はあ…?」

 がたがたと音を立てながら用具室にスコアボードを押し込んで、小走りで木吉の下へ向かう。朝練は時間も短ければ仕事も少ないので、黒子はいつも制服で参加しているし、監督のリコも同様だから、黒子は直ぐに教室に向かえるのだが木吉は未だ部活着のままおいでおいでと手招いている。大丈夫なんだろうか。些細なことが気に掛かってずぼらさが癪に障る。機嫌が悪いから、そう思ってしまう。最悪だ。溜息を着いて、木吉の前に立つ。内心、八つ当たりしてごめんなさいと謝罪しながら。

「何でしょう?」
「黒子今日元気ないな?」
「……そんなことないです」
「花宮だろ?」
「むう、痛いですね」

 人の話を聞かないことに定評のある木吉は最初から分かりきっていることをわざと回りくどい言葉で尋ねてくる。厭らしい人だ。でも外れたことを言っている訳じゃないから、木吉を責めるのはおかど違いというものだ。
 確かに今朝の黒子の機嫌が悪いのは花宮真の所為だったりするのだがこう直球に来られると意地を張りたくなってくる。分かりやすく機嫌を損ねてその理由まで当てられるなんてまるで常習的に自分が拗ねているみたいではないか。花宮相手に自分の機嫌がころころ変わるなんて気に食わない。たとえ自分と花宮がお付き合いをしている恋人同士だったとしてもである。支配されるなんてとんでもない。黒子は、男女平等主義だった。

「喧嘩か、」
「なんなんでしょうね、喧嘩ではありません。疲れるの嫌いなんですよ、二人とも」
「ああ、なんか、ぽいよなあ」
「――でも、」

 でもなんなんですかね。基本的にあの人性格歪んでるじゃないですか。人でなしじゃないですか。まあそんな人間と付き合ってる時点で自分も大差ないかもとは思いますけどね。ああろくでもない人間に限って頭はキレるって言いますか、狡賢く立ち回れるようになってるじゃないですか。あの人全部分かってるんですよね。人の嫌いなこととかコンプレックスとか悩みとかなんか兎に角他人には触れて欲しくないと思ってること全般的に。そういうのをあの人わざと言葉にして来るからつい此方も応戦すると言いますか、迎撃体制を取るほかないんですよね。ほら、あの人に口で負けるなんて嫌じゃないですか。だってあの人ですよ、花宮真ですよ。どう考えたって嫌でしょう。いえ、好きですよ、異性としてちゃんと想っていますよ。どうでもいい人間と付き合うほど暇じゃないですよ。


 一息と見紛う速さでつらつらとまくしたてた黒子は今も花宮を脳裏に浮かべたのか忌々しいですね、と顔を微かに歪める。一方木吉は今の黒子の言葉を総括してもしかしてのろけだろうかと思い、だがもしそうなら黒子も花宮も随分面倒くさい恋愛をしているものだと思った。しかし半面微笑ましくもあってそれが表情に現れていたらしく黒子は直ぐに気付いて木吉に違いますよと訂正を入れた。全く聡い少女である。そんなだから、あの花宮真に気に入られたりするのだ。

「人より影が薄いのも成績があの人より悪いのも今更なんで、全く気にしてないんですけどね」
「あ、喧嘩の話?」
「喧嘩じゃないですよ。でもあれですよね、胸のサイズとか下着のチョイスとか、そんなの知ったこっちゃないですよ」
「…ん?」

 大体巨乳がいいなら最初からそっち系の女を探せばいいし、私の胸を育てる方向で行くなら責任はあちらにありますよね。ただ揉めば良いってもんじゃないそうですし、つまりあの人に技術がないんですよそういうことです。それから下着にしたってあの人が私の下着見るイコール脱がす時ですよ。そこに文句つける意味がちょっとわかんないですね。大体あの人趣味悪いですから。サイズとか私の雰囲気考えもせずに好みを言われても絶対似合わないに決まってるじゃないですか。ああ、でも桃井さんなら似合いそうですね。なるほどなるほど、つまり結局はあの人が巨乳が好きだとその一点に帰り着くわけですよ。思春期ですかそうですか。大体、久しぶりに会った彼女にいきなりお前胸成長しねえなとかふざけてんのかって話ですよ。大体会わない間に成長してたらおかしいと思いませんか、おかしいでしょう。あの人、私が自分の彼女だって分かってるんですかね。馬鹿と天才は紙一重ですから分かったもんじゃありませんよ。ああ思い出したらまた腹立ってきました今日は一日あの人からの連絡は全て着信拒否ですよもう!

「わかりましたか、木吉先輩?」
「仲良いみたいで安心したよ、」
「一体何を聞いてたんですかあんた!」

 珍しく声を荒げた黒子の頭を、いつものようにへらへら笑いながら撫でる。実は黒子の言葉の後半は朝のHRを告げるチャイムにかき消されてよく聞こえなかったのだが仕方ない。それにしたって可愛い後輩が幸せならそれが一番、何よりだ。たとえ彼女に無視された彼氏の愚痴が自分の携帯に蓄積されたとしてもだ。木吉は、今日一日携帯を触らないと決めた。全く照れ屋な彼氏も困ったものだと、見当違いなことを考えながら。



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ぺったんこな胸には愛がいっぱいなのです!
Title by『にやり』




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