※アースイレブン追加招集メンバー設定



 ご機嫌なベータが、白竜の一歩前を歩く。ターン、ターン、ステップ、もう一度ターン。ベータの動きに実況を添えながら白竜は両手をジャージのポケットに突っこんだまま足を進める。彼女に置いて行かれないように、不必要に距離を縮めすぎないようにペースを調節しながら。うっかり肘でもぶつけようものなら、ベータの上機嫌な言葉の攻撃が始まるだろうから。真っ直ぐ進んでいた進行方向を蛇行させて白竜の道を封じ、微笑を浮かべながら毒を吐く。想像するに容易くて、白竜は肩を竦めた。この仕草を、幸運にもベータは見逃してくれたらしい。
 白竜も傲然として人前に立ち塞がる人種ではあるが、どうにもベータとは属性が違う気がする。試合中に顔を出す荒っぽい口調の彼女との方だったら気が合いそうだと密かに思ったこともあるが、以前剣城に打ち明けたら微妙な顔をされたのでそれ以来誰にも言っていない。白竜はただ自分の実力が誇れるレベルであることを前提にし、更に高みを目指すライバルの存在ばかりを好ましく思う。それ故の言動が偉そうだと訴えられても改善しようがない。結局サッカーの実力でしか他者を測って来なかったから。だからアースイレブンというチームは気に入っている。初め素人集団の試合を見たときは怒りと落胆という振れ幅の違い過ぎる感情に戸惑い受け入れることすら出来なかったが、今では地球代表に相応しい実力を持つチームに仕上がっている。仲間としても、競う相手としても非常に申し分ない。
 しかしベータはどうなのだろう。鬼道が未来へ飛んで事情を離したらあっさり着いて来たらしいが。彼女曰くサッカーは前より楽しいと思っているらしい。特に天馬たちとやるサッカーは悪くないとか。勿論、負けていては話にならないという強さへの矜持もある。だから白竜はベータのことが嫌いではなかった。
 たとえこれから男子中学生の懐に容赦ない打撃を与えるおねだりをされることがわかりきっていたとしても。

「うふふ、最近のベータちゃんは絶好調でしたからね〜、ねえ?」
「そうだな」
「あらあら〜? 拗ねてるんですかあ?」
「そうじゃない」
「どうだか!」
「いいから真っ直ぐ歩け」
「は〜い!」

 ターン、ステップ、ステップ。距離が開いた。大股を意識して、白竜はその距離を戻した。
 仲が悪いわけではない。ポジションが同じことへのライバル意識は敵愾心とは違う。そう考えれば、寧ろ仲は良い方だろう。期間を設定して、その間の試合でどちらが多く得点を決めるか勝負するくらいには。
 事前に取り決めていたことなのだから、途中キャプテンである天馬に「白竜ちょっとドリブル技のレベル上げてよ」と言われてトップ下に下げられても勝負を白紙に戻すことはしなかった。シュートが狙えない位置ではなかったし、チームの人数が順調に増えている最中コンスタントに試合に出られるのだから悪い条件でもなかった。事実、ベータとの勝負は接戦だった。結果だけ見れば、ベータが勝って白竜が負けたのだ。先程天馬の元へ行き勝負期間中の試合をまとめたデータで確認してきた。それ以来ベータはずっとご機嫌だ。白竜はぶすっと黙り込んでしまっているけれど、不機嫌ではない。ただベータがいつ嫌味な軽口を叩くだろうかと警戒はしている。しかし彼女は自分のご機嫌をアピールするだけで白竜を貶しはしなかった。単純に勝者への褒美として負けた方が何か奢るという条件の元、白竜に何を買ってもらうか迷っているのかもしれない。未来人であるベータが、この時代の何かを欲しがるのか白竜には想像もつかずに不安が嵩んでいく。彼女は遠慮を知らないから。

「そんなに警戒しなくても、高価なものは強請りませんよ」
「……ホントか?」
「アクアモールで目を着けていたものがあるんですよね〜」
「自分の金で買えないようなものなのか!?」
「それは私が耐え性のない短気な女だから目を付けたのに買ってないイコールお金がないイコール高価な物って言ってるんですか?」
「違うのか?」
「てめえ、殴るぞ!? ――こほん、いえいえ本当に高価な物ではありませんよ」
「……」
「ただあなたの頭と胴体と両腕と両脚があれば充分です」

 一瞬顔を出した激しさを引っ込めて、ベータは問題は金額ではなく白竜であればそれで済むと言う。しかし言い方が物騒過ぎて、白竜は人身売買でもさせる気かと本気で顔を顰めてしまった。馬鹿なことを考えているのだろうと微笑む。
 そのまま歩いていると、アクアモールが見えてきた。賑やかな人混み。接触による言い合いを避ける為に白竜がキープしていた距離をあっさりとゼロにして、ベータは彼の腕に自分の腕を絡める。

「――何だ?」
「見てください、あの人の波。はぐれちゃ大変ですから、こうして歩きましょう」
「歩きにくいな」
「デリカシーがないですねえ。こういうときって普通男の子の方からはぐれないようにって手を取るものでしょうに」
「俺に妙な期待をするな。文句があるなら離れろ」
「えー? 今日の勝者はベータちゃんなんですけどぉ?」
「ぐっ!」

 今この場に於いてどこまでもベータの振りかざす勝者という言葉は正論だった。諦めて、自分の右腕をベータの好きにさせることにする。ポケットに入れていた手も、引っ張られても融通が利くように右手だけ出した。それだけのことで、ベータは満足げに白竜を見上げてくる。絡ませた腕の感触は、細すぎて落ち着かなかった。
 やがてアクアモールの内と外の境界線にある白いアーチ状のゲートを潜る。ショップが連なっている界隈への階段を登るのではなく左に曲がり直進するベータを不思議に思ったけれども白竜は彼女の気儘に従う。ぴったりとくっついて離れないベータに、白竜は試合中にマークされている気分だった。そこまでしなくても逃げはしない。この先にあるものが何か、ここまで来れば流石の白竜だってもうわかっている。
 観覧車に乗るなんていつぶりだろう。そんなことを考える白竜の眼前には、巨大な観覧車がゆったりと回っていた。



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なんかもう恋みたいだ
Title by『魔女』





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