※捏造過多
※未来に連れ去られずに諸事情で居座ってる設定。

■見習い騎士とメローラ姫(天葵)

「天馬、てーんま!」

 バルコニーから上体を乗り出して、葵は記憶の中の幼馴染を大声で呼び付ける。中世とおとぎ話を混ぜた時代錯誤な城には更に不釣り合いなサッカーグラウンドでボールを蹴っていた天馬は困ったような顔を上げる。周囲を見渡してから、駆け足で葵の下までやって来た。

「困るよ葵、そんな大声で俺のこと呼んだりしたら」
「どうして?」
「見習い騎士とお姫さまが仲良くするのって変だよ」
「天馬は天馬、私の幼馴染でしょ?」
「今の葵はメローラ姫でしょ!」
「そんなこと言ったら私は誰と仲良くすればいいの?」
「うーん、茜さんとか?」
「茜さんは神童先輩ががっちりガードしてるもん、つまんない!」

 アーサー王の前ではそれなりにしとやかな姫を演じている葵もそろそろ歩きづらい丈のドレスにうんざりしている。ワンダバスイッチでサッカーをする度に動きやすい格好に一瞬で変じる天馬たちを見つめながら、姫という身分故これまでのマネージャー業さえ捗らない。葵が働けば、それだけこの世界に元々存在する下仕えの者たちが恐縮してしまうことを学んでしまったから、葵は彼女として振る舞う為に何故か人目を憚らなければならなくなった。メローラとしての役割はもう演じきったのに、一体いつまでここにいるのだろう。
 不確かな世界にタイムジャンプしたことでTMキャラバンは故障中、修理が終わるまで葵たちはこれまで通り物語で割り振られた役割に収まり続けている。勿論円卓の騎士たちはサッカーの練習を欠かさない。しかし葵は運動不足に陥る一方だ。城の中の人たちは葵を姫として扱い親密な関係には程遠い。雷門の面子も騎士と姫という体面を守り、他の人間が同席している場では滅多に態度を崩さない。それが不満で、葵は天馬が困るとわかっていながら大声で名前を呼んだのだ。
 ――確かに私はマスタードラゴンにも連れ去られないし、お姫さまって大事にされてるし、だけどもうちょっと私のこと気に掛けてくれたっていいんじゃないの?
 そんな一抹の欲求はいつだって天馬にだけ向かっていく。だってそれは、天馬が葵の幼馴染だから。もしくは、特別だから。王子さまではないけれど、それでいい。だってこの世界に王子さまがいたとしたら葵は天馬と離れて嫁がされてしまうかもしれない。

「ねえ天馬、何か凄い功績をあげて来てよ」
「ええ?急に何?」
「マスタードラゴンの事件以上に凄い事件を解決して、父上にこういうのよ」
「――?」
「『アーサー様、もし此度の私の成果を讃えていただけるのでありますればどうか、メローラ姫を我が妃として迎えさせてはくれませんか!』ってね!」
「……それって俺が葵に結婚申し込むってことじゃないか!」
「そうよ?」
「ダメダメ、褒美に葵を貰うなんて、絶対ダメだよ!」
「メローラ姫の命が聞けないの?」
「葵の命令でもダメなものはダメ!」

 最初と言っていることが違うではないか。指摘したら、どうせまたダメだと繰り返すだけだろうから言わないけれど。そこまで嫌がらなくても良いじゃないかと不貞腐れたくなってくる。頬を膨らませながら、希望的観測を加味するならば自分を褒美という物扱いすることを拒んでいるだけだと思いたい。
 平和な時間を浪費している内に忘れてしまいがちになるけれど、この世界の主人公は天馬なのだ。だったら、お姫さまと結ばれるエンディングを迎えてみたって強ち間違いとは言いきれないと思う。そんな葵の無邪気な乙女心を解さない天馬は今日も今日とて見習い騎士なのであった。


■騎士団長と妖精ビビアン(拓茜)

 円卓の騎士を率いる統率力とアーサー王を前にしての凛とした立ち振る舞い、その端正な顔立ちから神童拓人に焦がれている女中は多い。どこの世界に行ってもお前は女を吸い寄せるんだなと呆れた幼馴染の言に若干邪悪な響きを感じる。神童としてはそんなつもり全くないのだから。その証拠に、神童は滅多に騎士以外の人間と関わらない。つまり、女性とは殆ど接触を持たなかったのである。
 しかしある日突然神童の周囲に女の影が出現した。それはあのマスタードラゴンの事件を境としており、なんとアーサー王のエクスカリバーに魔力を籠める為に立ち寄った聖なる泉の精霊を連れ帰って来たというのである。雷門の面子からすれば仲間である茜を回収しただけの話だが、城の人間からするとそうはいかなかったらしい。
 あの神童が傍に置く女というものを一目見ようとする輩が後を絶たず、結果神童は茜に自分の部屋から出ないようにときつく言い聞かせなければならなかった。この自分の、というのは茜の部屋ではなく神童の部屋のことであり、それは野次馬を散らす効果はないのではと誰もが思った。しかし本来泉にいるべき妖精を連れ込んだのだ。丁重なもてなしを期待するならば泉に帰ればいいと責められては面倒だから、神童は茜の居住を誰にも相談せず自分の部屋と決めてしまったのである。

「…シン様、私、暇」
「すまない。もう少し大人しくしていてくれると助かる」
「…………はい」
「明日は一日休めるから一緒にいよう」
「はい!」

 外出を許可されずしょげかえっていたのが、翌日神童がずっと一緒にいると約束した途端茜はその表情を輝かせた。背中の羽も嬉しそうにパタパタとはためいている。茜の感情と直結した羽の動きに、神童は不思議の念が湧き上がる。この世界では妖精である茜の背から直接生えていたりするのだろうか。役割だからと適当な呪文でエクスカリバーを修復していたけれど、それを可能にする力が今の彼女には備わっているということ。つまり今の茜は妖精だという事実。

「なあ山菜、背中どうなってるんだ?」
「へ?」
「羽がどうなってるのか見たいなって」
「…え、やあ…」
「――!いや、違う脱いでくれとかそういう話じゃなくて…!」

 神童にしては浅薄な物言いに完全に勘違いをしてしまった茜は顔を真っ赤にして両腕を抱えて蹲ってしまった。その反応に、焦った神童はひたすらに謝り倒してから頭を冷やしてくると部屋を飛び出して行ってしまった。
 そしてそのまま幼馴染の部屋に飛び込み彼のベッドを占領して泣き言を零し続けたのは彼の名誉のため、一応幼馴染の胸の内にだけしまわれている。



■騎士団長と妖精ビビアンと騎士(拓茜+太陽)
※ゲーム設定


「その羽、動いてるけど飛べるんですか?」

 そう、純粋な疑問で以て茜に問いかけてくる太陽に、茜は「どうだろう?」と疑問で返した。太陽たちが泉を訪れた時は水面に浮かんでいた彼女だけれど、それ以降は自分たちと一緒に歩いて洞窟を抜けていた。自分だけ楽をするのが申し訳なかっただけで本当はすいすい飛べるのだとしたら凄いと思う。常識的に考えて、人間に羽はないし自由に空は飛べないから。
 神童がアーサー王に呼ばれている間に彼の部屋を訪れた太陽を、警戒心の欠片もなく招き入れた茜は久しぶりの客人に顔を綻ばせている。事情があって部屋から出る機会の少ないことを太陽は知っていたから、大人しく彼女の申し出を受けて神童の帰りを待つことにしたのである。

「飛べるなら、窓から外に出ちゃえばいいんですよ」
「飛べなかったら地面に真っ逆さま」
「そうですね…、じゃあ僕が下にいて受け止めるとかどうです?」
「危ないからダメ」
「……、それにしても本当にこれ、不思議ですよね」
「ふえ?」

 却下された提案に未練はなく、太陽はさっさと次の話題に移行する。イナッターでも尋ねていたが相変わらず関心は茜の妖精の羽にあるようで、太陽は彼女の羽に手を伸ばし触れていた。布地でも、蝶々や鳥の羽の感触とも違う奇妙な手触りに、つい太陽は無遠慮に手を這わせ続けた。

「ひっ、擽った…や、太陽くん!」
「………え」
「――ひゃあ!」

 どうやら本当に妖精として組み込まれた茜の羽は彼女の背に直接生えているらしい。当然触れられれば感覚があるわけで、だがしかしこんな反応をされるとは全くの予想外であり太陽も硬直してしまう。だって彼女の声は鈴のように細く、震えるような悲鳴はどうにもよからぬ方向に思考を傾けさせてしまうのだ。

「た、太陽くん、もう手…放し――」

 よほどそこへの感覚が敏感なのか、うっすらと涙を浮かべて懇願する茜の姿にうっかり太陽が唾をのみ込んだ瞬間、激しい音を立てて部屋の扉が開かれた。吹っ飛ばされたという表現の方が相応しいような、そんな勢いで。

「雨宮―――!!!」

 嘗てない神童の怒声に、太陽は直感で茜の背後に隠れた。尤もそんなこと抵抗にもなっていなくて、その日太陽は日が沈むまで神童にサッカーボールで追い駆けまわされることになる。
 それでも現代に帰る前にもう一度隙を見て茜の羽に触りたいなあと思ってしまっている辺り、全く反省していなかった。
 だって独り占めは、ずるい。



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呪文をとなえて
Title by『魔女』



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