※学パロ 納得がいかないと口煩い隣の男に向かって「面倒臭い男だな」と吐き捨ててやれば結局予測通り「はあ!?」と大袈裟な反応が返ってくる。面倒臭い。 玲名の隣に、どこの誰とも知れないミストレが我が物顔で居座り始めたのは少しだけ前のこと。気付けば周囲の人間もまるで玲名の隣にミストレが居ることが当たり前になっているかのように振る舞っていた。声を大にしておかしいでしょと唱えるのは今ではヒロトくらいのものだった。 当の玲名はといえば、まるでどこ吹く風といった体で日々を過ごしている。自分のペースに割り込もうとする奴がいるのなら相手が誰であろうと盛大に顔を歪めた。それが、ミストレが玲名に興味を持った最初の切欠でもあるのだが、彼女はそれを知らないし、ミストレも教えようとは思わない。 昼休み、昼食をさっさと食べ終えた玲名は自分の席で杏から借りた雑誌を読んでいた。ファッションに特別興味はないが無関心でもない。学生である自分は基本的に制服ばかり着ている所為か、そう私服の数など多くはないし、それで問題もないのだ。 そんな玲名の前に、昼休みが始まると同時に教室から姿を消していたミストレが、いつの間にか戻っていたらしく勝手に玲名の前の席に座り彼女の机をつつく。 最初は無視をした。雑誌の内容が面白かった訳ではなく、ただ自分の行動とミストレからの接触を比重で比べたら当然自分を優先したくなる。それだけの理由。ミストレは慣れたものだといいたげに笑っていてそのまま玲名の雑誌を覗き込む。彼の頭により生まれた影が不愉快だったから、一度雑誌から視線を外す。 「このモデルより俺の方が顔良いよね」 「…何故女のモデルと比べる」 「だって事実じゃん」 誌面の女子を指差しながら、ミストレが笑う。正確には、嘲笑っている。庇う義理もないから玲名は何も言わない。ミストレが女だったら彼の言う通り、上っ面の外見評価は圧倒的にミストレを勝者に選ぶだろう。だがそれ以上に人間には好みというものがあって、それが最も重要であると玲名は考えている。 つまりミストレが幾ら己を誉めちぎり、かつ周囲の人間が外見においてはその言を認めても、彼が愛されているかとは又別問題である。何故なら他人についてそう見解を述べない玲名からしてもミストレの性格は悪い。だからといってミストレは嫌われている訳でもない。 昼休み早々姿を消していたのも、恐らく連日行われている、彼に好意を寄せる女子からの告白を受けていたからだろう。ミストレは告白して来た女子を手酷い言葉で追い返すことでも有名だった。そもそも付き合う気もないのに呼び出しに応じている時点で、その目的は告白への誠意ではなく相手をぼろくそに言い負かす為ではないかと疑いたくなる。 「…今日も告白か、」 「何、気になる?」 「またお前に泣かされた女子がいるのかと思うとそっちが不憫で仕方なくてな」 強ち嘘ではないが正直玲名はミストレの所業を知りながら告白する女子にも辟易している。 以前この教室で彼に告白して振られたらしい女子がそのまま此処で泣いている現場に遭遇してしまったことがある。玲名は忘れ物を取りに来ただけだったのだが、自分の席近くで泣いている見ず知らずの女子を放って置けずに慰め役になってしまった。あれは凄く疲れた。翌日、朝からミストレの頭を丸めた教科書で叩く程度には彼を恨んだ。 「納得行かないよね」 「何の話だ」 「普通逆だと思うんだけどさ」 「意味が分からん。要点だけ手短に話せ」 「今日隣のクラスの女子数人にさ、君に近付くなって言われたんだけど」 「そうか、良かったな」 「良くないし、納得出来るわけないじゃん!」 はっきり言って、かなりどうでも良かった。ミストレがそんな女子の言い分を受け入れる筈もなく、早速こうして玲名の傍に居座っている時点で答えは出ているのだから。 恐らく、ミストレの言う普通とは、彼に好意を寄せる女達に玲名が彼に近付くなと言われることなのだろう。しかしミストレは知らない。彼が手酷く振った女子が玲名に慰められたことによってかなりの高確率で彼女のファンになってしまっていることを。そして一度告白した相手と頻繁に一緒にいる玲名に近付きたいと思った時邪魔になるのはミストレなのである。当然、玲名だってこの事実は知らない。 納得行かないと延々と繰り返すミストレに面倒臭いと返すことにも飽きた。再び雑誌に目を落とすと、先程ミストレに指を差されていたモデルの写真が目に入る。 確か、それなりに人気のあるモデルだった。玲名も普通に可愛いと思っている。しかし、目の前のミストレがもし女の子でこの隣に映っていたりしたら、やはりこのモデルの存在は霞んでしまうだろう。それ程に、ミストレの顔は上等だ。そしてもう一つ。もし自分が男だとして、間違ってもミストレを可愛いなんて言いたくないと思った。なんとなく、意地である。 しかし、現時点で周囲の人間から格好いいと言われる回数が多いのはミストレではなく玲名の方であることに、二人はまだ気付いていなかった。 ――――――――――― ひとでなしと正しい最悪 Title by『≠エーテル』 |