※大学生・バンアミ・ヒロラン前提のバン+ヒロ
※捏造過多



 二人で並んで歩くのは随分と久しぶりのことだとヒロは若干の居心地の悪さを覚える。それは顔を合わせてから数分のことで、直ぐに昔の感覚を取り戻して嘗ての親しみが顔を出す。バンもまた、数か月ぶりに待ち合わせたヒロとの距離感を掴み直したのか年上と気兼ねさせない、それでいて頼りがいのある逞しさを湛えたまま「行こうか」とヒロを促した。
 ヒロがバンだけではなく普通に学生生活を送っていたら交流もなかったであろう面々と顔を合わせる時間を持てなかったのは大学受験を控え受験勉強にせっせと励んでいたからだった。バンを初めとするLBXを通じて出会った嘗ての仲間たちはその前の年に受験を終えてそれぞれ大学生活を謳歌しているらしい。それでも受験に対する記憶は生々しく残っているのか、ヒロの邪魔をしないよう必要最低限の交流しか持たなかった。主に年末年始の挨拶程度だったとヒロは記憶している。身の丈に合わない大学を志望したわけではなかった。寧ろそれを理由に苦労したのは意地でもヒロと同じ大学に進学すると駄々をこねたランの方である。
 まあヒロに言わせれば、受験というひとつの戦いに身を投じるわけであるから脇目など振っていられないという、未だに冷めやらぬ戦士マンへの情熱から派生した妙な使命感に走った結果である。クリスマスも初詣も犠牲にして、ヒロに対抗して彼に倣うランの絶叫を聞き流しながら、そういえばバン達は受験生にも関わらずクリスマスパーティーも主催したし初詣も除夜の鐘を待つことなく布団に入っていたヒロを叩き起こして大人数で出掛けたことを思い出して迷ったりもした。
 ヒロの志望していた大学はバンと同じ大学で、学部は違うもののアミやカズも在籍している。在籍はしていないが時々ジンやユウヤが遊びに来るし、アスカに至っては別大学に進学したにも関わらず単位交換制度を利用してバン達と共に楽しいキャンパスライフを送っているらしい。ランはそれを大層羨ましがっていたし、ヒロも同じだった。受験勉強を手伝ってあげようかという申し出をありがたいと思いながらも、それはランさんに向けてあげてくださいと矛先をずらした。傍から見ていればランが一方的にヒロを追い駆けているような図も、ヒロだってランと同じ大学に進学したいと思っていることを見抜いている先輩方は快く彼女の面倒を見ることを引き受けてくれた。
 そうして何とか無事に二人して大学に進学したものの、思いの外予定が立て込んでしまい学年の違うバン達と会う時間を取ることがなかなかできなかった。講義の組み方がわからないと騒ぐランを助けつつ、また友だち作りという面においては物怖じしないランに助けられ、慣れない建物の中を駆け回り怒涛の大学生活が幕を開けたのである。

「…あ、すいませんバンさん、ちょっとコンビニ寄ってもいいですか。コピーしたいプリントがあるんです」
「いいよ。ランの分?」
「ええ、まあ…」
「ヒロとランって学科違うよね?同じ講義取ってるんだ」
「一般教養の方で幾つか。この間の講義ランさん途中で爆睡しちゃって教授の話聞いてなかったので一応プリントだけ渡しておこうかと思いまして」
「甲斐甲斐しいなあ、」
「違いますよ!」

 ランに頼まれたからではなく、ヒロの自主的な行動と知ってバンは声を上げて笑った。結局、LBXと無関係の場所で離れがたさを覚えているのはお互い様なのだなと微笑ましくもある。自分の言えた義理じゃないかもしれないがと、幼馴染と親友を脳裏に過ぎらせる。今日とて向かう先はキタジマで久しぶりにLBXバトルでもしようかという相変わらずな面子と名目をこさえている。中学生の頃のように、放課後を待てずに駆け出すことはしないけれど、楽しいという感情を忘れることなく同じ場所に集まり続けることのできる幸運をバンはしっかりと自覚している。それはきっと、ヒロも、これから顔を合わせる仲間たちの誰もが同じはずだった。

「…バンさんだってアミさんと相変わらず仲が良いみたいじゃないですか!」
「――ん?」
「惚けたって無駄ですからね!わざわざその日の講義が終わる時間が違っても待ち合わせて一緒に帰ってるってカズさんから聞いてるんですよ!」
「ヒロ、声が大きい」
「あ、すいません」

 バンが浮かべた微笑の理由を過去の回想から現在の幸せにスライドさせている間、ヒロはずっとランとの仲をからかわれていると羞恥に耐えていたらしい。顔を赤くしながら必死に話題を逸らそうとバンとアミの関係について噛みつく。出会った当初から幼馴染として紹介されていたが、それからずっと変わることなく親密な様子を伺わせる二人に恋愛の文字がちらつかないはずがないと自分とランの関係を棚上げして問う。そんな恋愛とは無関係な場所から始まった関係の相手との仲を勘繰られることのむず痒さを思い知って話題を撤回してくれさえすればヒロは満足だったのだが、バンの回答はその斜め上を行く。ヒロはいつだってその颯爽としたバンの姿に憧れて来たのだ。

「朝一緒に出るとさ、つい鍵を持って出るのを忘れちゃうんだよ」
「――へ?」
「だからさ、先に帰っても家に入れないからアミを待って一緒に帰ってるんだけど…あれ、」
「バンさん、ちょっと話が見えな――」
「俺とアミが一緒に住んでるって、ヒロ知らないんだっけ?」
「……、聞いてませんけど!?」
「ヒロ、声が大きい」
「あ、すいません」

 反射的に叱られると謝ってしまう。だが直ぐにそれよりも大事なことがあるとヒロはバンの顔を凝視する。だがバンはなんてことはないといった顔で寧ろヒロがどうしてそんな真剣な顔で見つめて来るのかと首を傾げる始末。一緒に住んでいることを知らされなかったことは勿論ショックだが何せ受験を名目に数か月距離を取ったのは此方の方だ。仕方がないということにしておこう。だがしかし、同棲に至るのであればそれなりに準備期間として普通にお付き合いをしていた期間があるはずだった。まさか恋人同士でもない男女が交通に不便も感じない場所に住んでいながら実家を出て二人で暮らし始めるなんて流石に有り得ないだろうから。

「…あの、バンさん…」
「うん?」
「バンさんと、アミさんは…お二人は…いつ頃からお付き合いされていたんでしょうか…」
「え?えーと、そうだなあ、ヒロやランと出会うよりも前のことだから――」
「は?」
「ん?」

 指折りアミとの年月を数え始めるバンの横で、ヒロはとうとう信じられない物を見る目で彼を見た。つまり、ヒロがバンと出会った頃にはもうバンとアミは付き合っていた訳で、しかしそんな気配を微塵も感じさせないまま世界の危機を仲間たちと乗り越えていたということになる。けれどやはり、教えてくれてもいいじゃないかとそんな拗ねた幼い気持ちが顔を出すことも事実で、ヒロはバンに向ける視線が自然刺々しくなってしまっていることに気が付く。それは、真正面から視線を受けるバンも同じだった。

「あはは、ごめん。あの頃はそんな話題持ち出すきっかけが掴めなかったからさ」
「でも、じゃあ全部解決した後に教えてくれたって良かったじゃないですか」
「うーん、そういわれるとその通りなんだけど…。まあ、俺とアミが一緒にいるのは当たり前って感じが浸透してるなら別にそれでいいかなあと思って」
「惚気ないで下さいよ!」

 悔しげに「僕とバンさんの仲なのに酷いですよ」と上着の裾を引っ張ってくる弟分の主張に、バンは苦笑しつつ殆ど誠意の籠もらない謝罪でのらりくらりとヒロの不機嫌をいなす。
 だって惚気ないでと言われても、バンにとっては日常の一端を晒しているだけのこと。そして無自覚にランと自分を直結させて振舞ってみせるヒロの態度だって実の所惚気以外の何者でないことをバンは知っている。ヒロが自分とアミの関係を知らなかったことよりも、ランと未だ付き合っていないということの方がバンには理解しがたいことなのである。
 全く以て可愛い後輩たちだと、バンは乱暴にヒロの頭を撫でてやった。ヒロのトレードマークであるアホ毛がご機嫌を爆発させた犬の尻尾のように揺れた。本当に、可愛い。



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すきなんだなあ
Title by『るるる』





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