01.お早めにお召し上がりください(ジャアス)

 部隊名もそうだけれど、彼の名前自身とても甘そうで美味しそうだとアスカは唇を舐める。一番はトマトジュースだがジェラートだって好物だ。馬鹿にしているつもりはなく、単純に自分の趣向の話をしている。それなのにジャック・ジェラートは部隊名ファイア・スイーツの由来を滾々と説明してくる。それは以前聞いたよと口を挟んでも無駄なので、リュックから新しいトマトジュースの缶を取り出して開封する。
 聞き流す体を取ったもののあまりにジャック・ジェラートの話が長いので、アスカは飲みかけの缶を彼の口に押し付けてやった。

「アンタや部隊を食べ物だとは思ってないよ」

 どちらかといえば食べられるのは俺の方でしょ?そう小首を傾げると、ジャック・ジェラートは缶に印刷されているトマトのように顔を真っ赤にして「はしたない!」と叫んだ。食べるわけないと否定しない時点で、アスカの優位はちっとも揺らがないのだ。




02.この想いは返品不可能です(郷ミカ)

 ミカよりも二年先に生まれているはずの彼は、彼女の真っ直ぐな好意を全く理解していないようだった。言葉にも態度にも露骨に含ませてきたつもりだったけれど、郷田はどれもこれもただ慕われているとしか思っていない。舎弟になりたいわけでは決してなく、ただ背中を見つめていればよかった時期もいつの間にか通り過ぎてしまった。これからは隣に並んで歩きたいというミカの願いをただ仲間として協力を申し出たと思い込んだ郷田は二つ返事で彼女を歓迎したけれど。
 どんな理由であれ、郷田は受け取ったのだ。ミカが郷田の傍にいたいという想い。根底の恋心。知らなかったでは済まされない、男の甲斐性。撤回なんてしてあげないんだからとミカは郷田の背中を見つめる。そして慌ててその隣を陣取る為に歩き出した。
 そういうことですので、どうぞ腹を括ってくださいね、郷田さん。



03.割れ物注意(ガラスよりも脆いです)(ユウアミ)

「綺麗な髪ね」

 そうユウヤの後ろ毛を手に、アミはうっとりと呟いた。女の子に羨まれる黒髪とはなかなかのものだが、単にアミが緩い癖っ毛だから、癖のないユウヤの髪が羨ましいのかもしれない。彼自身は自分の髪には無頓着で、切るという発想に至らずに伸ばしてしまっただけのことなので。

「……遊んでも良い?」

 どうしてか遠慮がちに尋ねられた言葉に頷いてしまったのがユウヤの運の尽き。その後アミの髪の長さでは出来ない女の子のヘアアレンジを一通り体験させられてしまった彼はショックと蹲ってしまった。

「僕は女の子じゃないよ…!」

 そんなことは百も承知だと、アミはユウヤに膝を差し出して変わらず蹲る彼の頭を撫でながら詫びた。案外繊細なのだと学び、髪型に合わせて衣装チェンジまで強要しなくて良かったと心底胸を撫で下ろした。



04.取り扱いには十二分注意してください(キリジェシ)

 頬を膨らませて幼稚に拗ねて見せるジェシカに、キリトは面倒くさいという態度を隠そうとはしないまま舌打ちをした。その音に、びくりとジェシカの肩が震える。ちらりと彼の顔を窺う彼女に怒っていたのはそっちだろうとキリトは呆れて頭を掻く。

「…面倒な女だ」
「―――っ、あなた以外には面倒見が良いって言われるわよ!」
「そうかい。俺はあんたの面倒なんて見ないからな」
「はあ!?いらないわよそんなの!」

 今度こそジェシカは不愉快だとキリトに背を向けて部屋から出て行ってしまった。急に静かになった部屋に取り残されたキリトは女とは扱いの難しい生き物だと忌々しい気持ちに襲われる。
 そりゃあ確かにソファで寝ていた自分に親切心で毛布を掛けてくれたジェシカを寝惚けて「エイミー」なんて呼んでしまった自分が悪い。悪いとは思っても謝れない。
 キリトもジェシカも揃って扱いづらい人間だった。



05.アナタの取り扱い説明書が欲しい(ジンラン)

 ジンはあまり表情を変えないから機械みたい。悪意なくランが放った言葉はジンの胸中にすとんと落ちた。感情表現豊かではないが、心がない訳でもない。そんなことは分かっていると唸るランはきっと自分を基準にジンを評価している。

「怒った?」
「――いや、ただどう返したものかなと迷っていた」
「何それ」

 ジンの隣で、ランは他人の言動への返しに一々しっかりと考え込むことがまず理解できないと憤慨する。何かされたわけではなく、ただジンがそうあることに干渉する彼女はどこまでも本能で生きている。その眩しさだけはジンが救われた彼によく似ていて、それ以外はあまり。こうしてランを理解する為に他人を持ち出すことが良くないのだなとはわかっていても、つい。
 単純なはずなのに、だから自分とは真逆で難しい。説明書でもあればと嘆きかけて、機械みたいと称されたのは自分の方だと気が付いた。尤も自分の説明書など手に入れたところで、ランは読まずに捨ててしまうだろうけれど。


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説明書
Title by『Aコース』

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