暖炉の前でブランケットに包まって薪をくべる生活は想像の中でのみ魅力的に輝く。ぶらさげた靴下の中身はサンタクロースからのプレゼントなんかじゃなくたって良いんだよ。煙突から放り込まれたコインで得られる喜びはきっと今では些細なものなんだろう。煌々と燃える炎の残骸は見つめるには切なくてさっさとベッドに潜り込むことは子どもじゃなくても大正解で。だからって煙突からの侵入者を歓迎する為にさっさと目を閉じてしまうなんて勿体無い。夜更かしに憧れる子どもとは違う。はりきって眠らないことを誓いはしゃぎ倒す大人とも違う。ただ、触れ合った肌から渡し合う熱だって十分な暖になると思うんだ。ツリーの根元に積まれるプレゼントを心待ちにする子どもたちには理解しては貰えないだろうけど、嘘じゃないんだよ。


 ベッドの布団の下から毛布を引っ張り出した時はぐちゃぐちゃにしないでと怒ったアミも、今では静かに隣でその毛布に包まって俺の肩に頭を預けている。部屋の隅で稼働している電気ヒーターの熱は既に部屋中を覆っていて、ベランダに続く窓を少しだけ開けて換気に努めている。身体の温度と頬の温度が一致していなくて、アミの頭に自分の頬を押し付けるとその冷たさが気持ち良かった。それでもこのまま窓を開けていれば室温などどんどん下がってしまうのだろう。繋いだ手を解きたくなくて、立ち上がるなんて更に億劫だ。空いた方の手でCCM操作は出来るはずだから、先程メンテナンスを終えたばかりのオーディーンMk−Uに閉めて貰おうかな。それは流石に不精が過ぎるだろうか。オーディーンの隣には同じくアミがメンテナンスを終えたパンドラがいてまるで二体一組のように並んでいる。俺以外の目にもそんな風に映っていたら良いのにと、アミに同意を求めようとして止める。寝てはいないだろうけれど、目を閉じているアミに声を掛けるのは具合が悪い人の傍で騒ぐことに似た罪悪感を覚える。そうでなくたって、この場の雰囲気は柔らかく完成されていて、その静寂を突き破ることにはどうしたって勇気がいる。それはきっと、奮い立たせる必要のない勇気だ。
 壁の時計で時刻を確認すると、夕方からのみんなとの待ち合わせ時刻までは余裕があって、俺も少しだけ目を閉じて微睡んでしまっても構わないよなと気が緩む。クリスマスパーティーをしようと発案したのはヒロとランで段取りを組んだのはジェシカとアミ。時々俺とカズとジンとユウヤ。言い出しっぺの二人とアスカは料理や場所の調達よりもプレゼント交換の品物を吟味、調達することにばかり意識が行っていて、仕方がないので買い物にでも行って来いと送り出した。極秘指令として、ランにヒロの見張り役もさせた。間違っても戦士マングッズを出してきてくれるなと言い聞かせて。大した差もないくせに、手の掛かる子どもたちの為に頑張りましょうとおどけるジェシカに乗っかる振りをして俺たちもクリスマスを楽しみにしていた節もある。気心の知れた仲間と騒げるならばそれは楽しいに決まっているから自然なこと。場所は相談したらキタジマ模型店を使わせて貰えることになって、沙希さんのノリが良くて本当に助かった。キタジマ模型店集合ということは当然LBXもするだろうからと、待ち合わせの時間前に俺はアミの家でそれぞれ機体のメンテナンスをしていたわけなんだけど。ご近所さんという気安さで、母さんにアミの家に行ってくると言ってもあっさり送り出されてしまうからそれだけ俺とアミは近しいものと認識されていると思っていいのかな。逆にそんな風に思われてしまっているから、なかなか俺たち付き合ってるんだよなんて打ち明けられないんだけど。別に報告する必要はないんだろうけど、相手がアミだから言っておくべきなのかと時折悩む。

「――バン、」
「……何?」
「起きてた?」
「うん」

 密着した体勢はそのままで、アミが突然口を開くからつい反応が遅れてしまった。その間を寝惚けていると思われたのだろう。繋いだ手は徐々に汗ばんで、それでも離すくらいなら暖房を止めてしまおうかとすら思ってしまう。真冬の低温に毛布一枚でどれだけ抗えるか。屋内ならばそれなりにいけるはずなんだけど、それをアミに提案する気にはなれない。くっついていたいなんて真正面からはどうしたって恥ずかしくて言えなかった。何も言わずに行動で表すことの方がどちらかといえば気楽で、逆にアミは突然触れられることの方が恥ずかしいらしい。こうして二人きりの時ならば、怒らないでいてくれるのに。

「時間、まだあるね」
「そうだな」
「楽しみだね」
「ああ。ヒロがプレゼント交換に戦士マングッズを放り込んでこなければ良いんだけど…」
「ユウヤに当たれば問題ないわ」
「確率低いなあ」

 他愛無い会話だ。実はないけれど意味はあって、本当に言いたいことを告げるまでの助走みたいなもの。戦士マングッズを貰ってもどうしようもないと思う気持ちは本音でヒロには申し訳ないんだけど、そのプレゼントを引き当てることはそのまま戦士マンについて熱く語られること間違いなしなのでちょっと困るんだ。結局ランの監視を掻い潜って用意したプレゼントが何なのか、誰も知らない。俺は無難にメンテナンスキットで済ませてしまったけれど、俺たちには一番実用的なものだから問題ないと思う。問題があるとしたら無難過ぎて他の誰かと被っていることなんだけどそうなったらそれは仕方ない。消耗品だから、嘆くことでもないだろう。アミが何を用意したかは知らないけれど、たぶんセンスのいいものに違いない。
 取り留めのないことを考えながら、アミが次の言葉を発するのを待つ。沈黙が急かさないようにと気を遣っているつもりだけれど上手く出来ているかはわからない。

「ねえバン、私ちょっと寝惚けてるのかもしれない」
「うん、」
「だからあんまり本気にしないでね」
「わかった」
「みんなでクリスマスパーティーするの、私本当に楽しみにしてたのよ」
「知ってる。準備頑張ってた」
「…うん。それなのにね、今あんまり行きたくないなあって思っちゃったの」
「―――え、」
「あっちが嫌なんじゃなくて、こっちが心地良いの。こうして手を繋いでバンとくっついてるの、私好きよ」

 俺も好きだよ、と伝える代わりに繋いだ手に少し力を籠めた。応えるように握り返されたそれは、伝わっているという合図だろう。クリスマスを恋人と過ごすことが全てではなくて、大切な仲間たちとの時間だって問うまでもなく楽しくて大切だ。それでもふとした瞬間に込み上げた愛しさに飲み込まれてお互いだけを求めることも悪いことじゃないだろう。どうせ俺たちは望むだけで、あと数時間後にはこの部屋を出て集合場所に向かうのだから。
 クリスマスらしい飾り気なんて見当たらないアミの部屋で、等間隔で進む時計の針の音を聞く。また降りそうになる瞼を咎めるように、一陣寒風が吹き込んで来た。眠らないよと言い訳するように、結局オーディーンで窓を閉めればやはりアミには不精ねと笑われた。操作したオーディーンをしっかりパンドラの隣に着地させてCCMを置く。眠らないけど、微睡むくらいなら良いだろう。


 暖炉も煙突もない住宅にサンタクロースはきっと来ない。貧しさを憐れんでコインが投げ込まれることも、それが靴下に引っかかることもない。ベッドに潜り込むどころか日が落ちてから寒空の下に飛び出す俺たちはもう良い子じゃないのかもしれない。だとしても、クリスマスにかこつけて改めて愛しい人といられる喜びを噛み締めたって良いだろう。離れた場所に置いた鞄の中に忍ばせた、パーティー用ではない彼女の為だけに用意したプレゼントを渡すタイミングだけが俺にとって目下最大の懸案事項だった。



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Merry Christmas!!

唯一の手
Title by『にやり』



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