(貴族一之瀬と大貴族塔子)


リカの気持ちを拒んだことを責めようと思ったことは一度もなかった。
だけど。あのマークをリカに引き会わせたことを、いつだって責め立ててやりたかった。

「アンタの所為だ」
「ごめん」
「あんな奴、連れて来なければ、」
「マークは良い奴だよ」
「ああそうだろうさ、アンタにとっての邪魔者を引き取ってくれたんだもんな」
「…怒るよ」
「あたしの台詞だよ!」

リカを愛して傍に置く。手段は間違えどまだマークは良い奴だ。
過ちを見ながら目を伏せる一之瀬の態度の方がよっぽど悪質に映る。
一之瀬にリカを守る義務はない。だがせめて果たすべき友としての礼すら欠いている。
物事に潔癖な気のある塔子には、それが我慢なら無い。
ましてや渦中の人物が自分の大親友であるなら尚のことだった。
塔子は貴族にしては直情的だった。皮肉やおべっかを会話に散りばめるような技量は求めなかった。
だけど、それでも気付くべきことにはしっかりと気付く。時には、相手が尤も隠したい暗闇にだって容赦なく手を伸ばす。

「間違えるなよ一之瀬」
「何が」
「マークがどれだけ貴族社会の律に反してその想いを貫いたって、そこにアンタが自分の想いを投影していい理由なんか一つもない!」
「…………」
「秋が好きなら秋に言え。他人で夢を見るな!」
「それが出来ればとっくにしてるさ!」

怒鳴る声は揺れる。他人の言葉に激昂して泣くほど餓鬼じゃない。
だけどこうまで見抜かれて沈黙を通すほど、悟りきれてもいない。
間違っているのは知っている。リカにも申し訳なく思う。
それでもマークの気持ちは本物で。そしてその気持ちに素直に従う彼を、初めて心の底から尊敬した。
自分は彼のようには出来ないと知りながら夢を見ていた。それは事実。

「君だって貴族なら分かるだろう?好きなんて気持ちだけで結ばれちゃいけないんだ」
「なら、リカはどうなんだよ」
「…それは、」
「リカはあたし達とは違う。ちゃんと幸せになれる」

もしかしたら。一之瀬に偉そうなことを言いながら、塔子もまた他人で夢を見ていたのかもしれない。
自分では掴めないと知る幸せな未来を、リカに託していたのかもしれない。
二人して、どうしようもない。
諦めにも似た嘆息は部屋の空気を急激に冷ました。

「アンタの所為だ」
「…ごめん」

リカがこんなことになったのも。マークがあんな無茶をしたのも。あたしがこんなに泣きたいのも。全部全部アンタの所為。


『君だけが悪い』


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