(大貴族同士鬼道と塔子)


「お前の妹はとんでもないな!」
「はあ、」

笑いながら春奈を讃える塔子に、思わず溜め息を吐く。
お前を見て育った部分もあるんだぞ、と言いたい気持ちをギリギリで飲み込む。
久しぶりに鬼道の邸を訪れた塔子は、以前とは変わって静かな様子を真っ先にこう評した。
確かに、以前はこの邸は今よりずっと賑やかだった。
お転婆で、いつだってこの邸から脱走しようと試みる春奈を追い掛け回す音が頻繁に響いていたのだから。

「まさか春奈が踊り子になるとはなあ」
「…確かに木野の踊りは素晴らしいが」
「自分も踊りたいとは、まあ春奈らしい」

しかし驚いたのは春奈の行動を許可した鬼道に対しても同様だ。
あの過保護を体現化したような男がなあ。と思う。

「円堂の所か」
「ああ、宿舎は風丸の所だ」
「じゃあ取り敢えず安心か」
「取り敢えず、な」

塔子はオペラ座に客として訪れない。それをする為に整えなければならない身嗜みだとかが面倒だからだ。
円堂に会いに行くことはあるが、その殆どが日中だ。
だから塔子は鬼道が見事と云う秋の踊りを見たことがない。

「死ぬまでには見に行くかな」
「その前に木野が辞めるだろう」
「あ、」

うっかりしていた、とおどける塔子を眺めながら、鬼道はただ勿体無いと思う。最後に夜会で着飾った塔子と顔を合わせたのはいつのことだったか。
ストレートに誉めてはやれなかったが、充分似合っていた。
だけどやっぱり。今大して身嗜みを気にせず自由に外を出歩いている塔子の方がらしいといえばらしいのだ。
そのらしさを。塔子であれ春奈であれ尊重してやりたい。それが鬼道の願いだった。
こんな生き辛い社会の中で真っ直ぐ生きようとする二人の姿が、鬼道には只々眩しく映っていた。


『浚われないでそこにいて』


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