(宿屋主人風丸と踊り子春奈)


お転婆と称するには、彼女の突飛な行動はいつだって過激だ。

「音無…」
「………」
「悪いが家のカーテンは伝って3階の窓から降りるには強度が足りん」
「……誤算でした」

下町に興味があるのは結構だ。貴族特有の上流意識程人付き合いの上で厄介な物はないのだから。その点、音無春奈は好感的な少女だった。世界を一つの平面として見る平等な目線は、風丸が管理する宿舎での集団生活にいち早く彼女を溶け混ませたのだから。
だが些か好奇心や探求心といった欲求に忠実すぎる気がある。
今回だって。宿舎からの脱走を試みた春奈はあろうことか窓からカーテンを垂らしてそれを伝って逃げだそうとしたのだ。強度以前に長さだって足りない。そこは傍の木に飛び移るつもりだったらしいがそれも如何なものか。
丁度買い物から帰ってきた階下の婦人が絶叫していてくれなかったら今頃彼女は良くて病院行きで、最悪あの世行きだ。

「音無、お前を預けられてる俺の立場も考えてくれ」
「…関係ないです」
「円堂の立場もある」
「関係ないです!」
「あるんだよ。」

むくれてしまうのも説教する度のこと。随分見慣れた光景だ。
一人の少女として見てやりたい。だがそれをするには、俺と音無が出会う経過に他者を挟み過ぎた。
まず応えるべき友情と信頼がある。
それを蔑ろにすることは出来なかった。

「今度の買い出しには誘ってやるから、今日は諦めろ」
「本当ですか!?」
「ああ」
「楽しみにしてます!」

妥協案に、こうもあっさり乗ってくれるからまだ扱いようがある。
純粋なままの音無は、きっと大切に育てられて来たのだろう。
あの鬼道が押し切られるのだから、自分には到底押さえつけられる物ではない。
春奈がおしとやかなレディになるのが先か、自分が諦めて手綱を放すのが先か。
途方もない想像に一人、風丸は溜め息を吐いた。




『親心に似ている』


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