(貴族令嬢塔子と貴婦人リカ)


恋は好きな相手とするものだ。
愛は上辺だけで囁くものだ。
だから私は、あのマークとか云う男が心底気に喰わない。
リカは恋しか知らない。だからこそ、薄汚い愛なんて、知らなくて良かったのに。
あの男は、リカの傷にガーゼを当てる振りをして爪を立ててその痛みで元の傷の痛みを消した振りをしているだけだ。

「なあリカ、本当に良かったのか」
「…わからん」
「アイツは確かにリカの事、好きだろうけど」
「…うん」
「リカは違うだろう」

マークより、あたしの方が貴族としての格は上。リカが望めばいつだって此処から連れ出せる。それ程、マークの行為は貴族界の常識から逸脱している。
貴族ではないリカを、正妻に、ほぼ無理矢理に拵えた。
曲がりなりにもマークは貴族。元々町娘だったリカには逆らえまい。
相手が自分に向ける好意が多少歪んでいても、本物である以上。優しいリカは強気に心を傷付ける言葉など吐けなかったのだろう。

「何で、マークはウチにあんな優しいんかな」
「好きだからじゃないか」
「何で、マークはウチの事好きなんやろ」
「リカは魅力的だよ。だからマークなんか止めときな。女を力ずくで手に入れようなんて最低だ」

無意識に出た舌打ちにリカは相変わらずやなあ、と笑う。こんな貴族の令嬢らしからぬ振る舞いを繰り返すあたしの、心から友と呼べる存在なんてリカだけだった。
だからやっぱり、あたしはマークが嫌いだよ。
始めてみるリカの貴族みたいな姿。似合ってるけど似合わない。
屋敷を抜け出してリカに会いに行く度に着ていたワンピース姿が恋しくて、少し鼻の奥がつんとする。
リカが幸せにならない世界なんて、今すぐ消えてしまえ。




『マイナススパイラル』


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テーマ「人外ファンタジー」
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