(劇場支配人円堂と踊り子秋)


円堂の内側にある寂しさに似た空白に秋が気付いたのは、もう随分と昔のことだった。
そして更に昔に円堂に起こった出来事に関して秋が干渉する術などあるはずもない。
懐かしむこともせず、振り切ることも出来ず、円堂の過去は現在の円堂を形作っていた。秋は、入り込めなかった。
それでも自己の内側に芽生えた恋心をしかと自覚する秋には円堂の側を離れるという選択肢は生憎最初から無かった。退路を断っても焦りはしない。穏やかでもないこの恋故に選んだ道が今の秋の人生そのものであることを、やはり円堂は気付く筈もない。

「秋、」
「どうしたの、円堂君」
「無理すんなよ」
「……してないよ」
「そっか、」

偶に、秋は思う。円堂は、自分からの恋心には気付きもせず、だけども向けられる気持ちに既視感を覚え無意識に遠ざけたがっているのではないかと。
時折、円堂はどうしようもなく臆病で残酷だ。理解もせず告げられない気持ちを断とうとしているのだから。けれどそんな円堂の臆病さに感づきながら彼の意を汲んではやれない秋の気持ちも、円堂からしてみれば残酷だったのだろう。
並び立つには円堂と秋はお互いを非常に心地良い関係だと思っていたし、思っている。
流れる時の中に出会う変化を仕方ないと、当たり前と受け止めながら、円堂は自己の変化と成長を止めたかのようにこの場所に留まり続けている。だから、秋もまた円堂の側に留まり続けている。誰の許可も求めず、秋自身が選んだ。
秋は、出来るならば円堂との未来が欲しかった。プリマドンナとして、エトワールとして輝く現在よりも、何よりもそれを渇望していた。言葉にしたこともない願いは誰にも伝わらないまま。

「円堂君、部屋ちゃんと掃除してる?」
「……偶に、な」
「そう、」

近い内にまた彼の部屋を掃除しに行かなくてはならない。踊ることは嫌いではなく最早秋の一部であるのに。こうして円堂と話し彼の日常に溶け込めることこそを理想としてしまう自分は傲慢なのかもしれない。
そっと目を伏せる。秋は、過去も今も円堂が好きなまま。明日という未来だってきっとそのままだろう。
やはり円堂は、気付かないだろうけれども。


『いつかをいつだって信じているから辛いのだと』


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