(花屋吹雪と劇場支配人円堂)


円堂の元に、時たま注文もしていない大量の花束が送りつけられてくる。これまでは殆ど郵送であったのだが、今回は珍しく、贈り主が直接届けに来たようだ。どこから入ったのか、円堂の部屋の扉の前に立つ吹雪の自慢の顔は残念ながら花束に埋もれてしまい見えない。香りに噎せたりはしないのだろうか。円堂がそんな疑問を抱きながら声を掛ける前に吹雪が円堂に気付き声を掛ける。

「久しぶり、キャプテン!」
「おう、キャプテンじゃないけどな」

吹雪は円堂をキャプテンと呼ぶ。吹雪と円堂が出会った時、子ども達と遊んでいた円堂が彼等からキャプテンと呼ばれていたのがきっかけだ。
円堂も毎度訂正は入れるが吹雪が自分をキャプテンと呼ぶことに慣れてしまっているから、本気で是正を求めたりはしない。

「はい、お花」
「毎度毎度多いなあ」
「だってキャプテン、ちっとも僕の花屋に花買いに来てくれないじゃない」
「よく言うよ、気紛れ営業のくせに」

扉を開けて部屋に吹雪を招き入れる。生憎この部屋には花瓶がない。
机の上に花束を置いて貰い、お茶を用意し始める円堂をよそに吹雪は室内をきょろきょろと見回す。いつ訪れても変わり映えのしない部屋。それが吹雪の抱く円堂の部屋への感想だった。以前よりは多少整頓されている印象もあるが、物が増えた減ったといった変化はない。

「キャプテン、僕紅茶ね」
「はいはい」
「キャプテン彼女出来た?」
「はい?」

唐突な話題の飛躍に、円堂はただ吹雪を見遣る。吹雪は机に置いた花束をいじりながら淡々と話を続けるつもりのようだった。

「キャプテンに彼女が出来たら、」
「うん」
「きっとその彼女に花を贈ろうと考えるよ」
「そうかもな」
「そしたらキャプテンは僕のお店に来るよね」

凄く良いことばかりじゃない?と首を傾げる吹雪に、円堂も首を傾げながら考える。自分が誰かの為に花を買っている姿がどうしても想像出来ないのだ。実はこれまで、吹雪の花屋に訪れても挨拶程度で終わってしまい実際に花を購入したことはなかった。

「…わかったよ、来週辺りにでもお前の店行くよ」
「本当に?」
「だから来週はちゃんと営業しといてくれよ」
「勿論!」

そういえば、先日会ったばかりの豪炎寺が吹雪の花屋に行ったと言っていた。たぶん、その時に昔話でもして長い間顔を見せない円堂のことが気になったのだろう。
出されたお茶を飲みながら、お菓子用意しとかなくちゃとはしゃぐ吹雪を眺める。
取り敢えず、来週は丸一日吹雪に費やすために予定を空けなくてはいけないようだ。



『寂しがり屋』


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -