(王族豪炎寺と上流貴族鬼道)


花を贈ろうと思うんだ。
寄越された言葉に、いくらでも返す疑問符はあった。だが鬼道は何も聞かずにそうか、とだけ返した。必要ならば豪炎寺の方から口を開く筈だから。
そして鬼道の思った通り、豪炎寺は直ぐに次の言葉を紡いだ。

「吹雪の店はやっているかな」
「一昨日通りかかった時は開いていたが」

気紛れな昔馴染みの気紛れな営業方針により営まれている花屋。何故潰れないのか。豪炎寺と鬼道の長年の共通の疑問は解決されずに未だに前にある。
豪炎寺は余り花に興味がない。好きか嫌いかの判断基準になるようなレベルの興味すら持っていなかった。だから彼が花を買うとき、決まって花屋か同伴した人間にそのチョイスを任せてしまう。その上で、豪炎寺は吹雪の花屋としてのセンスに全幅の信頼を寄せていた。
だが吹雪の花屋は先に述べたが非常に気紛れな営業しかしない。開く開かないは吹雪の気分と花々の様子次第らしい。
使いたい時に使えない。その不便という一点だけが豪炎寺からすれば難点だった。

「雷門にか?」
「ああ。来週誕生日らしい。当日は会えないからな」

律儀な男だと思う。恋人ではない女性の誕生日の為にこんな気を回すのだから。
苦笑が洩れそうになるが寸前で思い止まる。そういえば自分も去年恋人でもない塔子の為に誕生日プレゼントを贈ったのを思い出した。
花束なんて喜ばれなさそうだったから、ティーカップとソーサーのセットを贈った記憶がある。
それ以来午後のティータイムは決まってそのカップを使用していると塔子が報告してくれた。
しかし雷門ならば花束でも喜んでくれるだろう。そして自らの手でその花々を花瓶に活けるに違いない。雷門もまた豪炎寺同様に律儀な人間なのだ。

「…しかし雷門が誕生日ならば俺も何か贈るかな」
「……。花以外で頼む」
「わざわざお前と被せる訳ないだろう」
「それもそうだ」

恋人でもない女性の誕生日を祝う。その相手が友人ならば当たり前のこと。しかし時が経ち各々が大人になればこんな簡単なことが困難になってしまうだろう。
男女と言うだけで沸き立つ下世話な噂は、貴族にとっては娯楽で大敵なのだから。
鬼道と豪炎寺は顔を見合わせながら、厄介なことだと苦笑いを浮かべる。
だが取り敢えず、来週の、友人の誕生日が幸せな一日になれば良いと願っている。


『花束を贈る為に』


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