(使用人綱海と大貴族塔子)


可愛らしい人形よりも、柔らかい毛並みが自慢の愛犬と庭を駆け回っていた。
ふかふかなベッドの上よりも、庭に植わった一番大きな木の上によじ登ってはしゃいでいた。
あの頃のお転婆娘の名残を色濃く残したまま成長した塔子は、今日も変わらず日々を過ごそうとしている。

「塔子ー、朝だぞー」
「起きてるよ!」
「マジで?」

幾つになっても、朝だけはいつまでも布団にしがみついていた塔子が、最近では綱海の声が掛かるよりも先に起きるようになった。
それはかなりの驚きで、成長の喜びであったが、それ以上に寂しさとして綱海の胸を打った。
もう何年も、塔子を起こすのは綱海の仕事だった。なかなか起きない塔子から、力ずくで掛布団を剥ぎ取るなんてことは日常茶飯事だった。
そうして機嫌を損ねた塔子の為に、朝食のデザートのメニューを考えたりするのも綱海の一日の始まり方だった。
部屋から出て来た塔子は既に着替えも終えていて、呑気に今日の朝飯なに、と尋ねて来るから、まだ綱海の寂しさは苦笑に混ぜて誤魔化せる。

「言葉遣い悪いぞ」
「今更じゃん」
「尚悪い」

顔を顰めて食堂へ歩き出す塔子の背丈は、綱海の記憶の底辺にある頃に比べて立派に成長した。
それは確かに寂しいけれど、言葉遣いや身のこなしに、未だに懐かしい名残を見つけることが出来るから、綱海はやっぱり塔子の世話を焼くことを止めない。
取り敢えず、食堂に着いたら、彼女の髪に残ったままの寝癖を注意しようか。


『よくある風景』


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