(留学生貴族フィディオと貴族マーク)


自由な生き方に憧れた。
貴族であることはとっくに自身の中で消化して受け入れた。だけど貴族であることによって決められた自分の未来は必然として受け入れることは、残念ながらまだ出来ないでいる。
だから、旧友がしきりに憤慨している彼の行動を、俺は只一種の尊敬にも似た気持ちで眺めている。

「らしくないね」
「そう見えるか」

マークは元来貴族として、人間として優秀だ。
周囲を見渡す視野の広さも、良識の範囲内を理想的に動き回る行動力も持っていた。
それが、今回の奇行にどう繋がってしまったんだろう。
身分違いはいつだってヒロイックな物語の題材だがこうも権力で捻り上げた物語は只々虚しく映る。
通じ合わない想いを慈しんだ結果ならば、マークは結局いつまでも独り善がりな生き方をすることになるだろう。

「籠に入れられた鳥は、二度と空を飛ぶことは叶わない」
「………」
「絆せると思うの」
「そんなんじゃない」
「どうでも良いけど、手に入れて後は放置ってヒドいよ」
「………」
「いてもいなくても結局同じみたいじゃないか」

最後の言葉は嘘だった。多分、マークは今例の少女を失えば平然と生きていくなんて出来ないであろう程に傾倒している。
マークが恋で身を崩すとは思わない。
だけど余りに不器用過ぎて段々可哀想になって来る。
自分が犯した罪に怯えて相手に何も求められないと思っているんだろう。
それが優しく映るから、相手もきっとマークを拒めまい。
悪循環だとは思うがやはり発端がマークの迂闊な行動である以上、自分にはどうしようもないし、してやる義理もないのだ。
だけど、貴族に生まれた以上、恋とは無縁に生きていき、また他の貴族もそうだろうと思っていた。
愛人と云う言葉に嫌悪を抱いている以上は尚のこと。
そしてそんな自分と似た考えだったマークの取った行動に、少なからず驚いている。

「ま、お幸せに」

無謀なマークの行動は、自分が夢見たありふれた幸せを手に入れる為に必要なことなのかもしれない。
報われて欲しい、そう願いながら、同時に早急に、との言葉を添える。
だって最近エドガーの機嫌が悪いんだよ。
これって絶対マークの所為だろ?
恋って本当に盲目だ。預かり知らぬ友人達の想いの行く末を思いながら、少しだけ笑った。
俺はマークが羨ましいよ。


『翼をへし折ったね』


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