豪炎寺と夏未
(王族豪炎寺と上流貴族夏未)


全くもって不愉快だった。
この狭い貴族社会で心を許せる友など、そうそう出会えない。まして自分は女。男性のように自由に出歩ける期間だって限られているのに。
夏未は貴族である自分を厭ったことはない。
だが貴族社会と云うどこか閉鎖的で旧習から脱しきれない物については日々疑問を抱いて生きている。

「私と貴方が結婚すれば良いと言われたわ」
「そうらしいな」

不愉快よ、と零しながら食べるディナーはやっぱり少し味気ない。
目の前で淡々とナイフとフォークを操る豪炎寺の態度もまた味気ない。
二人で食事に行くことは結構な回数であった。
声を掛けるのは半々くらいの割合。
だがそこに恋愛感情など持ち込んだことは一切なかった。
ただ二人でいるのが楽だから。それだけを理由にお互い付き合いを続けてきた。

「見知らぬ男に嫁ぐより、仲の良い男と結ばれた方が幸せかしら」
「貴族でなければそうだろう」
「そうね」

父親の気遣いは、やはり着眼点がずれている。
娘の幸せを願って婿を選ぶなら、豪炎寺をその役に立てるのは見当違いだ。
貴族の結婚はいつだって戦略。家には上辺だけの愛を添えて。恋が欲しければひっそり外に向かわなければならない。
そんな常識すら見落としてしまうほど、夏未は愛されているのかもしれない。

「貴方、私と結婚出来る?」
「感情の話か?」
「ええ、勿論」
「出来ると言えば出来る。だがそれで何か変わるかと考えるとわからなくなるな」
「……私も、」

お互い恋人のいない身だからか。
貴族の一種の義務と理解はしつつ今一結婚という物がリアルに迫って来ないのだ。
貴族の夫婦は四六時中一緒にいる訳ではないから。偶に夜会に出掛けたり食事をしたり、その程度の付き合いで事足りてしまう夫婦だっているのだ。
そしてそれを考えた時、今の自分たちの関係と何が違うんだろうかと思ってしまう。
お互い、目の前の相手と結婚したいとは思っていない。
だけど周囲の斡旋に負けてそれを嫌がり付き合いを絶つのもまた違う。
ままならないことばかりだ。
口に含んだ肉の味すらよくわからない程、夏未の機嫌は再度下がり始めていた。


『黙ってちょうだい』


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