(上流貴族エドガーと貴婦人リカ)


初めて会った時、初対面にもかかわらず、高慢な態度が気に入らないと指をさされた。あの威勢の良さを、好ましく思ったのを今でも覚えている。
次に会ったのは、不愉快な噂話の真偽を確かめに訪れた旧友の屋敷の窓辺に立つ今にも消えてしまいそうなくらい弱々しい彼女だった。

「貴族ってみんな変わっとるんやね」

痛々しかった笑顔は日々を重ねる内に最早諦めに染まっていた。
マークは基本的に、この屋敷の中であればリカに一切の自由を許可していた。だから塔子やエドガーもこうして頻繁にリカを訪ねて来れるのだ。
しかし、マークはリカがこの屋敷を出ることだけは許さなかった。
欲しい物は全部与えてやる。だから此処からは出ないでくれ。
初めてリカがこの屋敷に連れてこられた日。マークから告げられたのは命令ではなく懇願だった。
そしてリカはこのマークの懇願を受け入れていた。何も欲しがらず、外にも出ない。だが絶えず空を見上げては泣きたい気持ちとか叫びたい気持ちを必死に殺している。

「生活に不便はありませんか、」
「走れんのがしんどいくらいかなあ」
「…それは、」
「冗談や」

エドガーは最初、リカがこの屋敷に嫁がされたと聞いた時、全く信じていなかった。
だがマークの様子が変わったこと。大貴族である塔子が頻繁にこの屋敷に出入りし機嫌が最悪に悪い日が続いていると聞いて漸く自分の目でことの真相を確かめにきたのだ。
あの日から数週間。嘗て無い頻度でこの屋敷に足を運ぶ自分に、エドガーは自分でも驚いていた。

「レディ、何故マークを拒まないのですか」
「エドガー、それちゃうわ」
「何がです?」
「うち、レディとちゃうわ」
「………」

また、はぐらかされた。エドガーは遠慮せずに顔を顰める。
リカは曖昧に微笑むだけ。
下町で過ごしていた頃はこんな風に笑わなかったのに。
マダムなんて呼んでやらない。呼びたくない。
どこから沸いたのかもわからない意地に突き動かされて、エドガーはきっとまたリカに会うために大嫌いになったマークの屋敷を訪れるのだ。


『願わくば、私の隣で』
レディでも本当は問題ない。


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テーマ「人外ファンタジー」
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