(宿屋主人風丸と劇場支配人円堂)


全てが商売と割り切ってしまえば幾分楽になるのだろう。優しさが仇になるタイプの人間がいる。きっと円堂はそういうタイプの人間だと思うと以前豪炎寺に言ったらお前もな、と返された。
俺はそんな善人じゃないよ。

「これ、今月の下宿代な」
「ああ、確かに」

思えば冷淡な関係に成り下がったのかもしれない。昔は金なんて、二人の間の何処を見渡したってなかったのに。
円堂が、自分のオペラ座の踊り子たちの下宿として家の宿舎を借りたいと言ってきた時、内心渋った。
そしてそれははっきり円堂に伝わっていたらしい。
只円堂はその理由を、年頃の女子が大勢集まる事で騒がしいなどの営業妨害を懸念されたと思っていたみたいだ。
円堂のその懸念に該当しているのは今の所音無一人だから安心してくれ。
俺が円堂の依頼を渋ったのは、大切な幼なじみが商売相手になるのを厭ったからだ。
きっと円堂は何も変わらないと思っているんだろうけど、多分ほんの少しの匙加減で俺達の関係は変わってしまうだろう。
だから俺は、あまり金が好きではない。生活に必要な最低限の額さえ手元にあればいいと思う。
あるに越したことはない。誰かはきっとこう言うだろう。
だけど俺はあるに越したことはあると思う。
過ぎたる財は傲慢を招く。
その最たる例が貴族じゃないか。嫌な奴ばかりじゃない。でもその嫌な奴じゃない連中は自分たちが貴族であることを嫌ってるんだから多分俺の考え方はそんなに間違ってないんだと思う。

「そうだ風丸、今度家の演目観に来いよ!」
「お前の所は敷居が高いからな…」
「いつも世話になってる礼に特等席空けとくぞ?」
「商売の場に情を入れるなよ」
「わかってる、でも風丸だからさ、特別」

昔と変わらずに俺を特別な幼なじみでいさせてくれる円堂の厚意を、やっぱり俺はもう素直には受け取れない。
円堂に損はさせたくないし、俺にだって仕事はある。
何より円堂の所に客として行くには身嗜みに関して費用が嵩み過ぎる。
打算的で俗な理由は俺を下らなくする。
二人の関係を冷淡にしたのは、いつだって他ならない俺の方だったね。


『大人になったんだよ』


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