「ふふふ」
「どうしたのさやか」

突然笑い出したことを不思議に思い声をかけると「いえ、大したことじゃないんですけど……」とさやかは鏡と向き合っていた体をあたしの方へ向けて言った。しかし、一度気になってしまったこの気持ちは簡単に拭えるものでもなく……そんな感情が表情に出ていたのか、彼女は再び笑うとあたしに背を向け再び鏡へ向き直る。
その動作があまりに綺麗で見惚れていると鏡越しに目が合い、それに羞恥を感じたあたしはつい目をそらしてしまった。

「これをもらったつい先日の一華さんの顔、 可哀そうになっちゃうくらい不安そうで……それを思い出してしまったんです」

そう言って邪魔なのか髪を耳にかけ、白くて形のいい耳にぶら下がる……あたしがプレゼントした折り鶴のイヤリングに大切そうに触れる。(折り鶴と言ってもレジンコーティングしてあるので意外と丈夫だ)

「今も一華さんらしくない顔で可愛いです」

「外見とはマッチしているんですけどね」なんてくすくすと上品に笑うさやかにむっとして、やり返そうと背後に寄った。(この行動ですらもしかしたら"らしくない"のかもしれない)
抱きしめるような形で左手は左耳のイヤリングのネジに触れ、右腕は顎の下を通りイヤリングの装飾部を支える。

「不安そうで可哀そうだったから受け取ったの?もしそうならそれこそ悲しいな。あたしはさやかのことを思ってコレを作ったから、さやかに喜んでもらえていないなら処分しよう」

さかやのことを思って作ったのは本当だが、そんなこと一切思っていなかった。彼女がコレを大切に思ってくれているのも先の扱い方でわかっている。

「いじわる……」

小さく聞こえたその言葉に口元の筋肉が緩むのを自覚する。目の前の鏡にそのだらしない顔が映っているが、さやかは下を向いているので気付いていないのだろう。
しかし、こんなにも愛しいという感情を他人に感じるなんてどれくらいぶりだろうか、外見が好みというだけでなく女の子らしい上品さに、たまに現れるそれに似つかわしくないほどの力強い意思。テレビでたまに見る量産型アイドルなんかではない、とても人間味があって親しみのある……そんなキャラクターに魅かれないわけはないのだけど。

「一華さん?」
「ん、なんでもないよ。ごめんね、意地の悪いこと言って。さやかがそれを大切に思ってくれているのは知ってるよ。鶴……好きなの?」
「やっぱり……覚えていないんですね」

そう言う彼女の顔は本当に寂しそうで、缶を開けたあの日交わした会話を覚えていないとかそんな些細な事ではないと瞬間に悟った。


17/1/11


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