酷い頭痛の中記憶を手繰り寄せる。普通とは違う状況に、絶対思い出さなければ大問題になり得る相手。体がそわそわと落ち着かず「ちょっとごめん整理させて」とあたしのベッドに座るアイドルに声をかけ、寝室を出た。
出た先のリビングは酷い有様で、ビールや酎ハイの空き缶がそこら中に散らばっている。流石にこのままではまずいと、考えながら片付けることにした。

順調に片付けを進めていると、見慣れないピンク色の空き缶を見つけた。形は良く見る、背の低い円柱型。パッケージを良く観察すると、美女缶〜超高校級編〜と書かれており、大きく開いた上部には一華と、あたしの名前も記されていた。

「……思い出した」

瞬間、全てを思い出してしまい頭を抱える。それは昨日一緒に呑んだ友人のせいだった。







「珍しく一人身のあんたにおすそ分け。私が帰ったら使ってみな。あんた好みの子選んであげたから」

彼女はそう言うと、酷く酔っているようでにやにやといやらしい表情でピンク色の缶詰めとDVDを渡してきた。わけがわからずとりあえず手にとって眺めていると「それ、美女が生まれる缶詰め」なんてバカげたことを言う。普段からバカだバカだと思っていたがここまでバカとは思いもよらなかった。

「今失礼なこと考えてたでしょ」
「うん」
「ひどっ……まあ騙されたと思って」



彼女のその言葉に「騙されあげてもいいかな」と思ってしまったあたしはその缶詰めを使ってしまったというわけだった。



彼女が返った後、デッキに取扱説明と書かれたDVDをセットし、再生。『作り方-美女を誕生させる-』を選択する。

『まずは、缶の上面にある性別に○を付け、記名欄に名前を入れましょう。生まれて来た美女はその通りに貴方を呼んでくれます』

流れて来た優しいアナウンサー風の声に、もっとチープな物を想像していたあたしは思わず噴き出した。意外とこれ、まじかも……なんて思わせる程度には信憑性のある声色にそのまま耳を傾ける。

『缶の中に入っている赤色のゼリーを40度のお風呂のお湯にゆっくり入れます。その際、必ず蓋をしましょう。そうでないと生まれてくる美女が恥ずかしがります』

リモコンを手に取り一時停止を押すと、立ち上がってお風呂場へ向かう。良い時間だし、ちゃっちゃとこの缶詰めの正体を確かめなくては。
浴槽を洗いお湯を張っている時、何やってんだろうなあ、あたし。と我に返ってしまったがここまできては後に引けなかった。

『扉を閉め、外で30分間待ちましょう。その間は、掃除をする。エッチなビデオを隠すなど、美女の受け入れ態勢を作ってください。美女は貴方の事を恋人であると信じ込みます
彼女たちは傷つきやすいです。安易な性の対象だけとせず、心の通った共同生活を目標に素敵な美女ライフを送りましょう!』

リビングに戻り、再生ボタンを押すとそんなことを言って説明は終わった。後は学習ビデオというやつを見てみなくてはと思ったのだけれど、思いのほか疲れやアルコールが溜まっていたようで、急にどっと身体が重くなった。続きは缶詰めの中身をお湯に入れてからにしようと、そう決めた。


16/9/29


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