朝、目を覚ましてすぐあたしの視界に入ってきたのは、いつも通り良く見知った部屋の壁だった。
勿論、今横になっているこの少し固いベッドも良く知っているし、枕もお気に入りの物だ。けれど、何故身動きが取れないのかだけはわからなかった。まるで金縛りのようなこの状態に、どうしたものかと考えていると、もぞもぞと何かが動く感覚が直に伝わってくる。もしやと思い視線を下へ向けると、やはりあたしの身体に白くて細い腕が絡みついていた。

「まじかよ…」

遊び歩いて女の子の家に泊まる事は度々あっても、自分の家に入れる事だけは避けて来たというのに。
そっと起こさないように抜け出す。まるで抱き枕にされているかのように、足まできつく絡みついていたのは参ったけれど、なんとか起こさずに済んだようでほっと息を吐く。
抜け出して、まず確認したのは彼女の顔だった。見覚えのある恐ろしく整い過ぎたその顔に原因不明の頭痛。頭痛や記憶が曖昧なのは昨日呑み過ぎたせいだとは思うが、どうしても記憶だけは手繰り寄せないといけない状況に頭痛の痛みが増した気がした。

再び隣で横になっている女の子に視線を向ける。青みがかった長くて艶のある黒髪に、さっきも言ったように目を瞑っていてもわかる整い過ぎた綺麗で小さな顔。背丈はあたしと同じくらいだろうか、来ている適当なあたしの服はぴったりだった。

「ん……一華さん?」

不意に聞こえた声に思わず身構える。透き通るような声はやはり覚えがある気がして、喉に何かがつっかえているような気持ちの悪い気分だった。
寝ぼけているのか、彼女はあたしの名前を呼んで寝返りを打つと、突然飛び起きた。

「すみません!寝てしまいました……」
「大丈夫だよ、あたしも寝てたから」

覚えていないなんて失礼にも程があると、適当な返事をすると彼女が背を向けていたあたしの方を振り向いた。何か思い出せたらなあと、何気なく彼女の顔を見ると、その人は、

アイドル、舞園さやかでした。


16/9/11


back
|

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -