いつの間にか止まっていた涙に気付き、私は走るのを止めた。
辺りを確認すれば、そこは1F視聴覚室前。石丸くんと話していたのは4Fの音楽室付近だったので、どれだけ必死だったのだろうかと思うと苦笑が漏れる。そして、先程よりも酷く伝線したタイツに溜息を吐いた。
替えのタイツは不本意ながら彼にプレゼントしてしまったため自室に戻る外なく、煩わしさを感じながらもこんな姿で舞園さんにでも遭遇したら……という一心で寄宿舎へと向かう。
しかし、現実とは非情な……いや、訂正しよう。あのアイドルは恐ろしいもので、いついかなる時も私の傍にいるかのように、私の都合が悪い時決まって登場すると相場が決まっているのだ。ただの推測に過ぎないのだけど。

「!!」

ここを曲がればもうすぐ寄宿舎という所で突然の衝撃。それに加え柔らかい感触に、声になりきれなかった叫びが上がる。
何が起きたのか状況を理解するより早く、私の行く手と視界を遮っていた何かがゆらゆらと揺れ、私を巻き込み私がそれに覆い被さるように、その場に崩れ落ちた。
状況を理解すべく、反射的に瞑っていた目を開き、未だ感じる柔らかい感触と仄かに香る覚えのある良い匂いの正体を捉える。……捉えてしまった。

「舞園さん!?」
「奇遇ですね七緒ちゃん!」

眩しい程のアイドルスマイル(超可愛い)。相変わらず文句の付けようがない程完璧なそれに見惚れ、一瞬思考が停止してしまったが、今重要なのはそこではない。今私たち、き

「奇遇ですね!」
「ソウデスネー」

私が返事をしなかったせいか、なんとしても偶然の出会いにしたいのが見え見え隠れ見え見えする笑顔で大きな声を上げる舞園さん。それに恐怖を覚え、彼女に覆い被さっていた上半身を慌てて起こす。しかし下半身は、それに続こうといくら力を入れても立ち上がる事は出来ない。(舞園さんが私の腰を掴んでるからそれは当たり前なんだけれども)
いくら抵抗しても彼女の下腹部に跨ったままの状態で、縫い付けられたように動けない体。体格差……というよりは、筋力差で舞園さんに敵うはずもなく、私は早々に逃げ出す事を諦めた。

「それにしても、すごくぼろぼろですね……」

近頃頻繁に見るうっとりとした表情の舞園さんが、眼前に広がっているであろう私の脚を指で優しくなぞる。勿論彼女の事なので、タイツが破けて外気に晒された勘所を押さえる事は忘れない。

「うん、だから部屋に戻りたいんだけど」
「そうですか」

私の希望に肯定的な言葉。しかしそれとは非対称に、彼女は触れるか触れないかの絶妙な力加減で行為を働き続ける。
時折、タイツと肌の隙間を割って指を侵入させてきたり、軽く引っ張ったり、破いたり……そんな初めて知る感覚に体が震えた。
舞園さんが触れた場所場所が熱い。気持ちが良いのだろうか、頭がぼーっとしてそんな錯覚に襲われる。

「んっ」
「七緒ちゃん可愛い……」

もう何度漏らしたかわからない恥ずかしい声に口を抑える余裕も、可愛いという彼女の言葉を否定する余裕もない私は、いよいよ自分の体を支えることすらできなくなり、再び舞園さんの上に倒れ込んだ。
それによって中断された行為。ゆっくりと、そして確実に取り戻していく思考能力。

鼻腔をくすぐる彼女の香りと、視界にちらつく少しグロスの剥げた艶やかな彼女の唇にその思考が驚きの過去を思い出させる。
どうやら私たち……キスをしてしまったようです。


14/2/6

 top 
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -