「貴女、下着は穿かない人?」

突然下から聞こえた声に、体を震わせる。今まさに階段を上り切ろうとしていた私は、反射的にスカートの上から臀部を抑えた。一番の願いはそれを言われたのが自分自身ではないということなのだが、今までの事や、現在の状況からそれはただの現実逃避であることを悟る。そして何より、心当たりがあった。唯一の救いは黒いタイツを着用していた事。
今更ながら弁解すると、下着も…ちゃんと穿いてるんだから……。

「穿いてます!」
「そう、それは失礼したわ」

振り向けばそこにいたのは、霧切さん。それなりに仲は良い。(と思いたい)……しかし、だからこそこの羞恥心には耐えられそうもなかった。だが、霧切さんはさして気にしていない様子。何食わぬ顔で階段を上ると、私の目の前で止まった。
うわあ、ごめんなさい申し訳ありませんだからパンツは取らないで!

「教科書、落としたわよ」

いつの間に拾ったのか(というか落とした事すら気付いていなかったわけだが)霧切さんは静かに教科書を差し出す。想像に反した出来事に阿呆の様な声しかでない。

「千崎さんは一体、何を想像していたのかしら」
「べ、別に何も…」

くすっと小さく笑うと、霧切さんは圧迫感を感じない程度に距離を詰めてくる。笑ったとはいえ、言葉には抑揚はなく感情は読めない。それを発するその瞳もどこか冷淡だ。
次の言葉を待とうと彼女の紫がかった色素の薄い目を見つめる。

「そうね、例えばこんな事?」

今度は互いの息が頬にかかる程近づくと、霧切さんはタイツの上から私のお尻を撫でる。学園内は暖房が効いているというのに、タイツ越しに触れる霧切さんの手袋は彼女の様に冷たい。

「霧切さん!?」

今までもこれからも程よい距離感で程よい関係を続けて行こうとしていたのにどうしてこうなった!
もう見ぬ超高校級のパンツコレクターと、新品のパンツ(Tバック)の提供者の姿を想いながら嘆く。

「何?」
「恥ずかしいからやめて!」

未だ私の下半身を這う霧切さんの手から逃れようと身をよじるも、離れる事は叶わず、どうしてか距離は縮まるばかり。
「Tバックね…」と呟いた時には心臓が破裂するかと思ったが、あまりに真剣な表情の霧切さんに気圧されて、なんとか収まっていた。

「それだけ?」

聞き捨てならない言葉に、不本意にも「はあ!?」と下品な声を上げてしまう。

嫌なら止めようと思ったけれど、そうではないのでしょう?
今度は楽しげにそう笑うと、止めていた手の動きを再開させた。彼女の手の動きは舞園さんとは違い、いやらしい動きではないのだが、楽しそうに触れているその表情に悪意しか感じ取れない。
真意はなんだろうと、セクハラしてくる辺り、どっちも質悪いんだけどね!

「ひっ」

突然の異物の侵入に身が強張る。
スカートは無残にも捲れ上がり、抱きしめるようなカタチでお尻に触れていた手がタイツの中へ入り込んでいた。
ちょ……まっ!霧切さん!?

「今度は何?」
「それは……だめだと思います!」
「たかがパンツよ。靴下に手を入れるわけではないわ」

パンツに手を入れる気だったんですね!もう何も信じられない!
舞園さんに迫られた時同様に襲い来る頭痛にめまいがする。

「それでも……!嫌なものは嫌なんです!」
「そう、千崎さんが嫌なら仕方ないわね。観客もいなくなったことだし」
「え?」

霧切さんはそう言うと、意味深な言葉と笑みを残して颯爽と去ってしまった。
あ、パンツ変えなきゃ……


14/1/2

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